2026年4月20日
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ベトナムの小売市場で、構造転換が加速している。ソーシャルメディア上の交流や娯楽と購買が融合し、「ソーシャルコマース」という新たな消費様式が急速に広がった。かつては一部の先進的な取り組みにとどまっていたが、いまや同国の小売経済をけん引する主要ドライバーの一つとなっている。
2025年末時点の市場規模は50億USD。前年比25.4%増と高い成長を維持し、2021~2024年には年平均成長率37.7%を記録した。今後も拡大は続き、2030年には約102億USDへと倍増する見通しだ。ソーシャルコマースは一過性の流行ではなく、消費行動に組み込まれた構造変化といえる。[1].
変化は購買プロセスそのものに及ぶ。従来の電子商取引は、消費者が明確なニーズを起点に検索し、比較検討を経て購入する「意図主導型」であった。これに対し、現在はTikTok、Facebook、Zaloといったプラットフォーム上で、アルゴリズムが提示するコンテンツを起点に商品と出会う「発見型」へと移行している。[2]
いわば「コンテンツから購買へ」の流れである。視聴から注文までの導線は大幅に短縮され、数クリックで購買に至る。とりわけZ世代とミレニアル世代がこの潮流を主導する。彼らは価格や機能に加え、共感、信頼性、双方向の関与といった要素を重視し、パーソナライズされた購買体験を志向する。
ベトナム市場において、小売の主戦場は「検索」から「発見」へと確実に移行している。企業には「見つけてもらう」ための設計力が問われる局面に入った。[3][7].
急成長の背景~リープフロッグ型で進む小売進化~
この急成長は、単なるトレンドではない。ベトナム特有のリープフロッグ型の発展構造に根差している。欧米市場が、伝統的店舗→大型量販店→ECと段階的に進化してきたのに対し、ベトナムではその過程を一部省略し、モバイルインターネットとスマートフォンの普及を背景に、伝統市場や零細小売から一気にモバイル中心の購買環境へ移行した。2].
【図1】EC・ソーシャルコマース市場規模
(十億USD)
資料: B&Company
その結果、ソーシャルコマースはECの中核に位置づけられる。2025年のEC市場は280億USD規模に達し、このうちソーシャルコマースは17.8%を占める。2023年比では25.4%増と、全体市場を上回る伸びを示した。[1].
背景には人口構造がある。2025年1月時点のソーシャルメディア利用者は7,620万人、人口比75.2%。[4]. オンライン購買におけるスマートフォン利用率は92%とほぼ飽和している。[3]
中核を担うのはZ世代(市場の約35%)だ。この層は実用性だけでなく、「発見する楽しさ」そのものに価値を見出す。SNS上のバイラルトレンドの影響を受けやすく、マイクロインフルエンサーのレビューを参照する傾向も顕著である。
一方、ミレニアル世代は依然として購買力の高い層だ。平均購入単価は約125USDと高水準だが、返品ポリシーの明確さや柔軟な物流といった「安心」を重視する点に特徴がある。
ソーシャルコマースは、若年層の嗜好とデジタル環境の進化が相乗的に作用し、単なる販売チャネルから消費体験そのものへと進化している。[2].
【図2】 ECプラットフォーム市場シェア (2025年第3四半期)(%)
出典:VinVentures発行「ベトナムのテクノロジー&ベンチャーキャピタル展望2025」
競争環境も急速に変化している。VinVenturesの調査によれば、ベトナムのデジタル小売市場は「分散」から「集約」へと移行した。象徴的なのがShopeeとTikTok Shopによる二強体制である。2025年第3四半期時点で、上位4プラットフォームにおける取引額シェアの97%を両社が占める 。市場の主導権は事実上、この2社に集中した。[2]。
なかでもTikTok Shopの伸長は著しい。中国系資本を背景に、コンテンツと購買を統合したモデルで急速にシェアを拡大し、首位Shopeeとの差を縮めている。従来型ECとは異なる競争軸が市場の力学を変えつつある。
市場は拡大局面から、淘汰と再編の段階へと移行した。今後は二強間の競争が、サービス高度化と体験価値の進化をさらに促す。[5].
「探す」から「楽しむ」へ~購買モデルの転換~
購買行動の変化は明確だ。従来の「検索・意図型」に対し、現在は「ショッパーテインメント」が主流となりつつある。動画やライブ配信を楽しむ中で商品と出会い、その場で購入する。意思決定時間は極端に短く、動機は「必要」から「興味・感情」へと移行した。
導線も変わった。Google検索やECサイト中心から、TikTok、Facebook Reels、YouTube Shortsといった短尺動画プラットフォームへ。信頼の源泉も、企業広告からKOC(Key Opinion Consumer)、KOS(Key Opinion Seller)、実体験情報へと移行している。
【表1】購買モデルの変化
| 特徴 | 旧モデル(検索型) | 新モデル (ショッパーテインメント) |
| モチベーション | ニーズ起点 (能動) |
興味・楽しさ起点 (受動・感情) |
| 意思決定にかかる時間 | 長い (比較・評価確認) |
短い (ライブ中に即決) |
| 主要チャネル | Google、Web、EC | TikTok、Facebook Reels、YouTube Shorts |
| 信頼要因 | ブランド、TV広告 | キーオピニオン消費者(KOC)、キーオピニオン販売者(KOS)、実体験(情報獲得) |
出典:B&Company
「情報の質」が競争力に
この環境下で重要性を増すのが「情報価値」である。消費者は演出された広告や画一的な訴求に敏感で、単なる優位性の主張では響かない。実体験に基づく評価や、利点・欠点の両面を含む情報が求められる。
SEOで重視されるE-E-A-T(Experience、Expertise、Authoritativeness、Trustworthiness)の概念は、短尺動画にも適用されつつある。信頼構築と顧客ロイヤルティの基盤となる。[8].
売り手の淘汰と市場の制度化
供給側では二極化が進む。Shopeeの出店者数は32%減、Lazadaは24.7%減となり、「誰でも売れる時代」は終わりを迎えた。競争に残るのは、物流、アフターサービス、コンテンツ制作力を兼ね備えた事業者に限られる。[10]
さらに、2025年7月施行の政令第117号は、非公式・不透明な事業者の淘汰を促す制度的フィルターとして機能する見通しだ。市場は法人・登録事業者中心へと再編される。[9].
AI活用は不可避に
マーケティングにおけるAI活用も急速に進展している。すでに約80%のマーケターが導入しており、未導入企業は競争劣位に陥るリスクが高い。[8]
AIは、検索前の段階で商品やコンテンツを提示する高度なパーソナライズを実現するだけでなく、コンテンツ制作の効率を飛躍的に高める。1つの企画やスクリプトから複数の動画やビジュアルを生成し、顧客セグメント別に最適化する運用が可能となる。
企業に求められる適応力
ベトナムのソーシャルコマース市場は、2030年に102億USD規模へと拡大する見通しだ。娯楽、交流、購買の融合が進む中、消費行動は短期化し、「コンテンツ起点」のモデルが主流となる。
この変化は企業に新たな機会をもたらす一方、適応力を強く求める。オペレーション効率、コンテンツ創出力、AI活用によるパーソナライズ――これらを統合的に実装できるかが競争力を左右する。
規制強化と市場のプロフェッショナル化が進むなか、変化に適応できる企業のみが、この成長市場で優位性を確立する。ベトナムの小売は今、「体験」と「技術」を軸に再定義の局面にある。
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| B&Company株式会社
2008年に設立され、ベトナムにおける日系初の本格的な市場調査サービス企業として、業界レポート、業界インタビュー、消費者調査、ビジネスマッチングなど幅広いサービスを提供してきました。また最近では90万社を超える在ベトナム企業のデータベースを整備し、企業のパートナー探索や市場分析に活用しています。 お気軽にお問い合わせください info@b-company.jp + (84) 28 3910 3913 |
参照:
2. https://www.flynde.com/blog/livestreaming-vietnam
3. https://opollo.onpoint.vn/blog/social-commerce-on-the-rise-in-vietnam-2025-outlook/

