
2025年7月3日
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旧正月を迎えると、多くのベトナム人が寺院を訪れ、1年の幸福と安寧を祈る。この2月、ハノイ市郊外のフンイエン省にあるノム寺を訪れた筆者の目に留まったのは境内の池を埋め尽くす色とりどりの鯉の群れだった。伝統建築の静謐な空間に彩りを添えるその光景は近年ベトナムで高まりつつある「鯉人気」を象徴するようでもあった。
[【図1】ノム寺(Chua Nom)
日本産鯉の輸入は10年で10倍に
ベトナムにおける鯉の養殖は1980年代に始まり、徐々に国産鯉が流通するようになった。文化的背景としては中国や日本と同様、鯉が「力強さ」、「忍耐」、「成功」を象徴する縁起の良い存在であることが挙げられる。なかでも、鯉が龍門を越えて龍になるという故事は広く知られ、仏教寺院や個人宅における池の設置にもつながっている。
輸入統計が整備されていないベトナム側に代わり、日本財務省の貿易統計(HS030111)をみると、日本からベトナムへの淡水観賞魚の輸出額は2013年の約0.3億円から2023年には約4.5億円へと10年間で15倍に拡大している(図2)。
【図2】淡水観賞魚の輸出額(日本 → ベトナム:百万円)
ハイフォンに集積進む養鯉農家、国産も多様化へ
国内でも養殖業が発展し、特にハイフォン市のアンラオ県には約40の養鯉農家が集積、総面積は16.5haに達する。 [1]日本産の錦鯉は一匹数千万VND(数十万円相当)にも上るが、ベトナム産は数百万VNDからと価格帯が広く、多様な層への浸透を可能にしている [2]加えて、病気に強く飼育も容易な点が初心者にも受け入れられている要因だ。
富裕層の庭池文化、ショーイベントで一段と注目
鯉人気は単なる観賞魚需要にとどまらず、住宅や商業施設の空間設計にまで影響を与えている。とりわけ都市近郊のヴィラでは庭に鯉池を設ける設計が長年のトレンドとなっており、その建設コストは800万VNDから数億VNDに及ぶ。[3]
また、ホーチミン市では鯉を対象にしたショーイベントも定着しつつある。2023年6月に開催された「ベトナム鯉ショー」には約600匹が出品され、審査員は日本の池魚業者・丸堂養鯉場が担当するなど、日越の専門家が交わる場ともなっている。 [4].
文化的親和性と外交関係が後押し、市場の拡張に期待
現在ベトナムで流通している鯉の大半は国産だが、日本産は高級品としてブランド性を持ち、一定の需要を確保している。加えて、近年は盆栽や折紙といった日本文化も市民権を得ており、鯉を含む「和の美意識」が次第に浸透しつつある。ベトナムと日本は経済だけでなく、文化・外交面でも安定した関係を築いており、こうした親和性が今後の観賞魚ビジネスや文化関連輸出の成長を後押しする可能性は大きい。
高品質・中価格帯の育成で市場裾野の拡大を
高級品としての日本産錦鯉は今後も富裕層向けとして一定のポジションを維持するだろう。だが、中間層の鯉愛好家が増加する中で、日本の飼育ノウハウを活かした中価格帯の普及モデルも今後の鍵となる。「観賞魚」というニッチ分野においても、ベトナムはすでに日本にとって重要な文化的・経済的パートナーとなっている。その池の中を泳ぐ錦鯉は静かに、しかし確かに日越関係の深化を映し出している。
[1] 出典:Tepbac(水産関連メディア) 巨大魚のレベルアップ:ベトナムのコイ 」(2022年11月)
[2] 出典:NonBo(鯉の販売・販売)』 鯉の知識:鯉の起源、分類、意味、飼育方法、価格 ”
[3] 出典:サイゴンプールスパ(プールとスパのソリューション会社) 鯉の池を作るにはどれくらいの費用がかかりますか? ? ? (2023年6月)
[4] 出典:トゥオイチェ(ホーチミン共産青年連合の新聞) 600 鯉が参加する ミス・カープ・コンテスト 」(2023年6月)
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