
2025年6月24日
業界レビュー / 最新ニュースとレポート
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急速に成長するベトナムの飲食市場でフランチャイズビジネスが新たな潮流となっている。経済成長と中間層の拡大を背景に飲食分野への外国資本の参入が相次ぎ、フランチャイズはスケーラブルな成長モデルとして存在感を高めている。しかし、主要都市での競争激化と運営コストの上昇が影を落とし、プレイヤー各社は地方市場に活路を見出し始めた。
フランチャイズ拡大、飲食分野が牽引
ベトナムが2007年にWTOに加盟して以降、同国の商業フランチャイズ市場は年々拡大してきた。2024年末時点で登録された外国フランチャイズブランドは330に達し、10年前の3倍となった(図1)。このうち飲食業は全体の45%を占め、最も成長著しい分野だ。
【図1】業種別・外国フランチャイズブランド数
出典: B&Company
手続きの簡素化もフランチャイズ拡大に拍車をかけている。ベトナムではフランチャイズ登録が法律上5営業日で完了する仕組みだ。 [1]実際には1か月程度かかる場合もあるが諸外国と比べ手続きの簡便さは際立っている。
飲食分野ではコーヒーや紅茶、ファストフード、BBQなどの業態が人気を集める。 ハイランドコーヒー や チュン グエン などの国内ブランドが市場を牽引する一方、 ロッテリア , KFC 、 ジョリビー といった外資系ブランドも存在感を発揮している。
【図2】外国飲食フランチャイズブランド(2025年5月)
ブランド | 品目 | 国 | 店舗数 | 展開省市数 | |||
全体 | HN | ホーチミン | 他 | ||||
ミクスエ | 氷 | 中国 | 1,000+ | – | – | – | 63/63 |
高地 | コーヒー | ベトナム | 874 | 187 | 308 | 379 | 60/63 |
チュン・グエン | コーヒー | ベトナム | 774 | 82 | 183 | 509 | 63/63 |
フック・ロン | コーヒー | ベトナム | 260 | 37 | 162 | 61 | 22/63 |
ロッテリア | ファーストフード | 韓国 | 240 | – | – | – | 52/63 |
KFC | ファーストフード | アメリカ | 200 | 24 | 21 | 155 | 41/63 |
ジョリビー | ファーストフード | アメリカ | 200 | 12 | 38 | 150 | 52/63 |
オン・バウ | コーヒー | ベトナム | 165 | 5 | 110 | 50 | 26/63 |
ゴギハウス | バーベキュー | 韓国 | 153 | 34 | 50 | 69 | 39/63 |
ドッギ | ファーストフード | 韓国 | 130+ | – | – | – | 56/63 |
出典: B&Company
【図3】日系飲食フランチャイズブランド(2025年5月)
ブランド | 品目 | 年 | 店舗数 | |||
全体 | HN | ホーチミン | DN | |||
ビアードパパの | ケーキ | 2017 | 16 | 8 | 8 | 0 |
ギューシゲ | バーベキュー | 2016 | 10 | 1 | 9 | 0 |
CoCo壱番屋 | 拉麺 | 2017 | 6 | 1 | 5 | 0 |
シャトレーゼ | ケーキ | 2024 | 5 | 0 | 5 | 0 |
牛角 | バーベキュー | 2023 | 5 | 1 | 4 | 0 |
ぼてぢゅうお好み焼き | 食べ物 | 2017 | 5 | 1 | 4 | 0 |
バスタ・ヒロ | パスタ | 2017 | 5 | 1 | 5 | 0 |
八番ラーメン | 拉麺 | 2024 | 3 | 0 | 3 | 0 |
パブロ・チーズター | ケーキ | 2021 | 3 | 2 | 1 | 0 |
ガッテン寿司 | 寿司 | 2018 | 1 | 0 | 0 | 1 |
出典: B&Company
シンガポール、日本、中国、韓国が主要なフランチャイズ供給国となっており、特にシンガポールは市場全体の27%を占める(図4)。日本からは シャトレーゼ や 八番 など19ブランドが進出しているが、依然としてプレゼンスは限定的だ。
【図4】国別・外国飲食フランチャイズブランド数(%)
出典: B&Company
都市部は競争過熱、地方市場に光
ベトナムの飲食市場は2024年に約270億USD規模に達すると見込まれる。 [2]しかし、華やかな成長の陰で課題も浮き彫りになっている。都市部では賃料高騰が進み、ホーチミン市中心部では前年から16%上昇。 [3]一部のフランチャイジーでは売上高の4分の1が賃料に消える事態も起きている。 [4].
市場の飽和感も強まっている。特にミルクティーやコーヒーチェーンでは競争が激化し、 スターバックス や ミクスエ といった有力ブランドですら不採算店舗の閉鎖を余儀なくされている。
こうした中、新たな成長機会として注目されるのが地方市場だ。ベトナムでは人口の約62%が農村部に居住しており、スマートフォンの普及や宅配サービスの拡大を背景に消費意欲が高まりつつある。 [5]ただし、購買力はまだ限定的で、価格に敏感な消費者が多いのも事実だ。
iPOS や Nestle Vietnam による調査では、飲料1杯あたりの購入希望価格が21,000〜35,000VND(約1.0〜1.5USD)とする回答者が最も多く、全体の40%を占めた 。 [6]これは前年から10ポイントの上昇だ。一方で、より高価格帯の飲料を選ぶ消費者は減少しており、値ごろ感のある商品が市場開拓のカギとなりそうだ。
法制度の課題と持続可能な成長
フランチャイズ市場拡大の一方で制度面の課題も残る。現行のフランチャイズ関連法は2005年に導入されたまま大きな改正がなく、知的財産権や営業秘密の保護について不十分な点が多い。これにより、ブランド価値が損なわれるリスクや模倣品問題も指摘されている。
インフラ不足や物流課題も地方進出の障壁となっている。農村部での成功には単なる価格戦略だけでなく、現地の需要に即した商品開発や柔軟な物流体制の構築が不可欠だ。
インフラ不足や物流課題も地方進出の障壁となっている。農村部での成功には単なる価格戦略だけでなく、現地の需要に即した商品開発や柔軟な物流体制の構築が不可欠だ。
[1] 出典: Legal Document Library (オンライン法律データベース) – ” 2006年5月25日付商業フランチャイズ登録に関する通達第09/2006/TT-BTM号 」(2006年5月)
[2] 出典: iPOS(POSソリューション会社)の記事、「 iPOSとネスレプロフェッショナルが2024年ベトナム食品・飲料ビジネス市場レポートを発表 」(2025年3月)
[3] 出典:CBREベトナム(不動産サービス会社)の記事 ホーチミン市の2024年第4四半期の数字 」(2025年1月)
[4] 出典:VIRAC(業界調査会社)の記事 ベトナムの食品飲料業界は2024年上半期に困難を乗り越えようと努力 」(2024年10月)
[5] 出典:GSO(ベトナム統計総局)の記事、「 プレスリリース:2024年中期人口・住宅調査結果 」(2025年1月)
[6] 出典:POS(POSソリューション会社)の記事、「 iPOS や ネスレプロフェッショナル、2024年ベトナム食品市場を発表 や 飲料ビジネス市場レポート 」(2025年3月)
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B&Company株式会社
2008年に設立され、ベトナムにおける日系初の本格的な市場調査サービス企業として、業界レポート、業界インタビュー、消費者調査、ビジネスマッチングなど幅広いサービスを提供してきました。また最近では90万社を超える在ベトナム企業のデータベースを整備し、企業のパートナー探索や市場分析に活用しています。 お気軽にお問い合わせください info@b-company.jp + (84) 28 3910 3913 |