ベトナムの林業に求められるデジタル化の進展

18 10月 2024
ベトナムの林業

By: B& Company

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ベトナムの林業

過去5年間、ベトナムの森林面積は安定している。ベトナム統計総局(GSO)によると、森林面積は2019年の約1,470万haから2023年に約1,490万haへ増加している[1]。天然林が約68~70%を占める(図1参照)。

林産物については、商業生産における原料需要の増加に牽引され、伐採木材の生産量が増加している。伐採木材量は2019年の約1,640万㎥から2023年には約2,160万㎥となり、年平均約7.2%で成長した[2]。2018年から2022年の伐採木材量の約88%を地場の民間企業が担い、外国企業は約1%に過ぎない[3]

【図1】森林面積(百万ha

森林面積(百万ha)

資料:ベトナム統計総局(GSO

【図2】伐採木材量(百万㎥)

伐採木材量(百万㎥)

資料:ベトナム統計総局(GSO

政府による林業のDX計画

「林業開発に関する2021年から2030年までの戦略、2050年までのビジョン」(523/QD-TTg:2021年4月発行)では林業の近代化、競争力強化により、森林の価値向上、持続可能な資源管理、林業開発を目指している。その範囲は森林の開発、保全、利用から林産物の加工、商品化までバリューチェーン全体にわたる。特にDXの対象となるのは「森林管理」、「林産物加工」である。

<森林管理>

森林資源の監視、評価システムの確立により、所有者の能力強化を図っている。リモートセンシング技術、地理情報システム(GIS)の利用促進、森林管理のためのIT活用など。また、生物多様性の保全のため、国による森林資源調査も実施されている。政府は2030年までに森林所有者の100%が森林火災の監視、管理、予防の能力獲得を目指している[4]

<林産物加工>

原料採取から最終加工まで製品ライフサイクル全体にわたる統合を政府が推進している。林産物の生産性、品質、価値を高めるべく、種子選択、森林育成、製品加工を含む生産の各段階での最新技術の導入が奨励されている。また、植林から最終製品までの各段階で効率を高めるべく、林産物加工向けの国家データベースの開発、林業管理強化用のITシステムの導入も計画されている。

林業におけるDXの現状

多くのDXの開発、応用に関する取り組みがなされ、森林の管理、保全に変革をもたらしている。民間企業や大学の開発、または外国から移転によりソリューションが生まれ、全国の国立公園や森林に導入されている。リアルタイムのデータは意思決定プロセスの強化、違法行為や環境脅威への迅速な対応に役立っている[5]

林産物生産プロセスでは特に厳格な輸出基準に対応するために追跡システムの導入が進んでいる。例えば、ベトナム森林科学研究所(Vietnam Forest Science Institute)は合法木材の追跡・管理ソフトウェアを開発し、木材識別のためのデータベースを構築している。とはいえ、そもそも森林データベースがないため、原産地の追跡や森林と工芸作物の地域の区別が難しいなどの課題に直面している。

林業におけるデジタルソリューション

  解決手段 機能 導入場所、効果
森林管理、保全 空間監視、報告ツール(SMART)[6] 森林巡視の強化、脅威の早期発見 •   国立公園:Cat Tien (Dong Nai)、Pu Mat (Nghe An)、Phong Nha Ke Bang (Quang Binh)

•   自然保護区:Xuan Lien (Thanh Hoa)

森林監視システム(FMS)[7] 衛星画像による森林被覆率の変化の追跡 国立公園:U Minh Ha (Ca Mau)
遠隔測定技術[8] 森林減少、森林劣化の検出 国立公園:Ben En (Thanh Hoa)、U Minh Ha (Ca Mau)
林業4.0[9] 7万ha以上のデータの更新、巡視活動の記録 15省市の樹木情報、人工知能による樹木識別
林産物生産、加工 木材識別[10] 合法木材の追跡、管理 樹種同定の所要時間を10~15分に短縮

資料:B&Company

DXは主に森林の管理、監視に役立っているが、政府には林業に関するデータ不足が障壁となっている[11]。また、企業には木材の採取、生産に関するデータ不足が課題となっている[12]。効果的なDXは包括的な森林データによるところが大きいが、既存の森林データは断片的であり、特に遠隔地では地理的な制約や不十分なインフラが先端技術の利用、デジタル技術の活用を制限している。

参入機会

政府は森林や植林地に関する情報共有で民間企業同士の協力を積極的に推進している。そのため、民間企業は森林データ収集のためのアプリ開発、樹木や周辺の環境要因に関するデータベース(情報が不足している未開拓の地域にも導入可能)の構築などの機会となり得る[13]。データベースにより今後のDXの取り組みの土台ができ、より高度な技術や持続可能な管理方法の効果的な導入が促進される。

また、政府は林産物加工産業への投資、開発、技術移転における国際協力を推進している[14]。先進的な植物品種の開発を改善することで林業の革新、持続可能性が促進される。国際協力の機会が開かれることで林産物生産の効率化が促進される。

まとめ

ベトナムの林業のDXはまだ初期段階であり、森林の一般的な監視、管理に限られるものの、データ管理と技術力の差は林産物の価値創造を強化し、持続可能な林業開発の促進と民間企業の協力によりデジタル化が推進されていくだろう。


[1] 出典:統計総局(GSO)のデータ「森林状況」(2023年12月)

[2] 出典:統計総局(GSO)のレポート「統計年鑑(2023年)

[3] 出典:統計総局(GSO)のデータ「木材生産量」

[4] 出典:「林業開発に関する2021年から2030年までの戦略、2050年までのビジョン」(523/QD-TTg:2021年4月発行)

[5] 出典:Nhan Dan(共産党中央委員会の機関紙)の記事「森林管理、保全にデジタル技術を応用する」(2023年5月)

[6] 出典:Nhan Dan(共産党中央委員会の機関紙)の記事「森林管理、保全にデジタル技術を応用する」(2023年5月)

[7] 出典:Nhan Dan(共産党中央委員会の機関紙)の記事「森林管理、保全にデジタル技術を応用する」(2023年5月)

[8] 出典:Journal of Nature & Environment(自然環境保護協会)の記事「国立公園の森林管理、保全に技術を応用する」(2023年8月)

[9] 出典:Vietnamnet(情報通信省のオンライン新聞)の記事「林業のDX:森の中の全ての木、動物を観察する」(2023年11月)

[10] 出典:Nhan Dan(共産党中央委員会の機関紙)の記事「森林管理、保全にデジタル技術を応用する」(2023年5月)

[11] 出典:「林業開発に関する2021年から2030年までの戦略、2050年までのビジョン」(523/QD-TTg:2021年4月発行)

[12] VnEconomy(大手経済専門誌)の記事「木材原料、木材製品の輸出は成長目標未達となり、2024年も課題が多い」(2023年12月)

[13] 出典:「林業開発に関する2021年から2030年までの戦略、2050年までのビジョン」(523/QD-TTg:2021年4月発行)

[14] 出典:「林業開発に関する2021年から2030年までの戦略、2050年までのビジョン」(523/QD-TTg:2021年4月発行)

 

B&Company株式会社

2008年に設立され、ベトナムにおける日系初の本格的な市場調査サービス企業として、業界レポート、業界インタビュー、消費者調査、ビジネスマッチングなど幅広いサービスを提供してきました。また最近では90万社を超える在ベトナム企業のデータベースを整備し、企業のパートナー探索や市場分析に活用しています。

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