By: B& Company
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ベトナムの人口は1億人を超えたとみられている[2]。東南アジアではインドネシア、フィリピンに次ぐ3番目、世界で15番目に人口が多い国である[3]。国際連合人口基金(United Nations Population Fund)はベトナムが2036年までに高齢化社会から高齢社会に移行すると予測するなど、世界で最も急速に高齢化が進行している国の1つである[4]。ベトナム統計総局(GSO)の人口統計(2023年12月)をみると、60歳以上の高齢者の割合は2019年の約12%から2023年には約14%へと急速に上昇している[5]。このような人口動態の変化、急速な高齢化は「死亡率の低下」、「平均余命の上昇」、「出生率の急激な低下」などが要因である。
【図1】高齢者人口(万人
資料:ベトナム統計総局(GSO)
【図2】粗出生率、粗死亡率(千人当たり)
資料:ベトナム統計総局(GSO)
【図3】出生時平均余命(年)
資料:ベトナム統計総局(GSO)
図1をみると、コロナ禍(2022年)に減少した高齢者数が再び増加している。急激に進む高齢化に対し、慢性疾患管理、精神衛生支援、長期にわたる介護などの高齢社会特有の問題に対応できる医療体制を早急に整備する必要がある。高齢者が適切なケアを受けられるようにすることは高齢者の生活の質を高めるためだけでなく、国の医療制度の持続可能性のためにも重要である。
ベトナムの高齢者ヘルスケアは多くの課題があるが、特に「専門介護者の不足」、「経済的な困窮」、「施設の利便性」が問題となっている。
<専門介護者の不足>
ベトナムの家族構成は伝統的に複合家族世帯(祖父母、両親、子どもの3世代同居)である。これまで高齢者は家族と一緒に暮らしながら世話を受けていたが、現在では経済発展、国際化によるライフスタイルの変化などの影響により複合家族世帯が減少しつつある。今後、成長した子どもたちが自分の生活空間を求めて年老いた親のもとを離れていくことにより、核家族化が進行するとともに、外部のヘルパーへの依頼が増加すると考えられる。介護人材の不足に直面すると、専門的な訓練を受けていない人材が対応するなど質の低下も懸念される。
Ho Chi Minh City Institute for Development Studies(ホーチミン市開発研究所)の文化社会研究部長によると、ホーチミン市では施設介護を利用している高齢者は約0.5%と少なく、その多くは身寄りのない単身者や政府の援助を受けている層である。残りの約99.5%の高齢者は自宅で介護を受けている[6]。
<経済的な困窮>
多くの高齢者が限られた年金や保険に依存している。必要な時に適切な医療を受けるためには経済的な支援が不十分である。
<施設の利便性>
特に農村部では多くの社会インフラが高齢者に十分に対応できていない。例えば、車椅子の高齢者にとってはコミュニティ内での移動が困難な場合がままある。高齢者医療制度の対応も不十分である。定期収入を得ることが困難な僻地では定期健康診断が受けられず、進行した段階で疾病診断を受ける高齢者が多く、治療が困難かつ高額になっている[7]。高齢化社会に対応した各種資源の確保と支援体制の改善が求められる。
政府は高齢者の生活の質を確保するべく、長年にわたり多くの支援策を講じてきたが、高齢者ケアの重要性を再認識し、高齢者の権利と機会を守るための様々な施策を打ち出し始めている。特に「2030年までの高齢者医療計画」(1579/QD-TTg:2020年10月発行)、「2021年から20230年までの高齢者に対する国家行動計画」(2156/QD-TTg:2021年12月発行)の2つの首相決定が注目される。「社会的保護対象者に対する社会援助政策の修正、補足」(76/2024/ND-CP:2024年7月発行)では社会的保護受給者の扶助基準が月50万VNDに変更された。また、全国に約600の社会保護センター(民間約400、国営約200)があり、その他の関係機関も定期的に高齢者向けの教育、普及活動を行う[8]。
高齢者ヘルスケアに関する課題の解決は参入機会に繋がる。高齢者ケア施設事業、介護支援機器が注目される。
専門的な医療サービスを求める高齢者が増える一方、愛する家族や慣れ親しんだ環境から離れて常に老人ホームで介護を受けることに対して躊躇する高齢者が出てきているため、施設介護に代わる専門的なサービスへの需要が高まっている。
技術革新によりモバイルアプリでの遠隔診察、継続的な健康モニタリングが可能になったことは高齢者の利便性、健康管理の効率性を向上させている。2021年に国際連合人口基金(UNFPA)、ベトナム保健省(MOH)の協力により、高齢者の遠隔健康管理を目的としたモバイルアプリ「S-Health」が登場した[9]。その他の機器としては監視カメラ、家庭用心拍計、GPS腕時計の需要もある。大切な家族のために信頼できる商品、サービスを求める消費者の需要は今後も高まることが予想される。
日本の介護モデルを導入した養護施設の例を挙げると、「Nhan Ai Daycare」(ハノイ市:2022年~)では自宅に家族がいない場合には徹底的なケアを確保しつつ、家族と一緒に過ごしたいという需要にも応えている。家族が介護できない日中は施設での交流機会を得られ、夕方には帰宅できる。高齢者にとって安全で楽しい生活環境を作るのが目的である[10]。Khoi Nguyen Investment Group、Genki Living Energyも同じようなモデルの擁護施設「Genki House」(ホーチミン市:2024年~)を立ち上げるなど広がりを見せている[11]。
Nhan Ai Daycare | Genki House |
(料金:600,000VND/日) | (料金:533,000VND/日) |
資料:企業Webサイト
ベトナムの高齢者向けヘルスケア産業は大きな転換期にある。課題は多いが成長の機会ともいえる。高齢社会に対する新たな解決策を模索しながら政府支援とともにより良い医療システムを構築していけるだろう。
[1] 高齢者:60歳以上(高齢者法:39/2009/QH12)
[2] 資料:ベトナム統計総局(GSO)のプレスリリース「2023年第4四半期の人口、労働、雇用統計」(2023年12月)
[3] 資料:国際連合(United Nations)のレポート「Population, Surface Area & Density」(2023年)
[4] 資料:国際連合人口基金(United Nations Population Fund)のWebサイト「Ageing」(2024年)
[5] 資料:ベトナム統計総局(GSO)のプレスリリース「2023年第4四半期の人口、労働、雇用統計」(2023年12月)
[6] 資料:VTV(ベトナム国営テレビ)の記事「高齢者はどのように医療サービスを選択するのか」(2023年11月)
[7] 資料:VOV(ベトナムの声放送局)の記事「高齢化と高齢者医療への適応」(2024年7月)
[8] 資料:Journal of State Management(国立行政学会の国家管理専門誌)の記事「社会主義法治国家の建設、改善を促進する文脈における高齢者の社会保障の確保」(2024年3月)
[9] 資料:国際連合人口基金(UNFPA)のプレスリリース「高齢者向け健康管理サービスS-Healthを開始」(2021年9月)
[10] 資料:VnExpress(FPT Groupのオンライン新聞)の記事「住宅型特別養護老人ホームに行く」(2023年4月)
[11] 資料:Nguoi Lao Dong(ベトナム労働総連盟の機関紙)の記事「ホーチミン市、高齢者向け寄宿学校開設」(2024年8月)
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