日越クリーンエネルギー協力の新局面 ~タイニン省にみる再エネ・グリーン水素連携~

ベトナムと日本は、エネルギー転換やクリーンエネルギーをめぐり幅広い協力枠組みを構築してきた。今後の焦点は、国家レベルで積み上げてきた政策的コミットメントを地方の具体的な事業へどう落とし込むかにある。
Vietnam-Japan clean energy

2026年8月31日

B&Company

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ベトナムと日本は、エネルギー転換やクリーンエネルギーをめぐり幅広い協力枠組みを構築してきた。今後の焦点は、国家レベルで積み上げてきた政策的コミットメントを地方の具体的な事業へどう落とし込むかにある。ベトナムでは近年、省・市が国家政策と地域資源、産業需要、投資機会を結びつける役割を強めている。そうした中、再生可能エネルギーとグリーン水素を軸に新たな展開を見せているのがタイニン省である。

1. 政策協力から具体的なプロジェクト形成へ

日越のエネルギー協力は、大枠の政策合意から具体的なプロジェクト形成へと移りつつある。2025年4月、両国政府は工業団地の脱炭素化、洋上風力発電、電力系統整備の各分野で協力を推進することで合意した[1]。さらに、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)の枠組みでは日越間のエネルギー転換プロジェクト15件が特定され、このうち9件が2025年11月の「Project Acceleration Platform」で詳細協議の対象となった[2]。対象領域はクリーンエネルギーだけに限られないが、再生可能エネルギー、産業分野のエネルギーマネジメント、電力系統インフラなどが協力分野として存在感を高めている。

こうした政策対話から実施段階への移行を金融面から支える動きも進む。2026年4月、国際協力銀行(JBIC)はBIDVを通じ、エネルギー転換と電力系統関連プロジェクトを対象とする最大2億USDのクレジットラインを設定した。このうち1.2億USDをJBICが拠出する[3]。2026年7月の協議でもLNG、再生可能エネルギー、送電インフラが主要テーマとなった。特にLNGについては、国際価格の変動、資金調達スキーム、事業スケジュールなどが課題として指摘されている。[4].

プロジェクト形成の舞台は中央政府間の協議から地方へも広がっている。地方レベルでは投資条件や産業需要、候補地の適性などをより具体的に検討できる。日本の「都市間連携事業」では、地方自治体が企業や研究機関と連携し、脱炭素化の可能性を調査している。実現可能性調査(FS)を通じ、将来的に二国間クレジット制度(JCM)の資金支援スキーム活用も視野に入れた案件形成を進めている[5]2026年度に採択された日越の自治体間連携事業にもエネルギー関連テーマが数多く盛り込まれた。水素技術、再生可能エネルギー、省エネルギー、エネルギーマネジメント、JCM候補案件の形成などが主要テーマとなっている。

【表1】2026年度に採択された主な日越自治体間連携事業

いいえ。. 案件 案件名 概要 プロジェクト概要
1 愛媛県
ヴィンロン省
エネルギー転換・SDGsモデル都市形成に向けた都市間連携事業 ・再生可能エネルギー

・廃棄物管理

・水素技術

・排水処理

風力発電、JCM候補案件、グリーン水素・アンモニアの利用、排水処理、古紙・廃プラスチックを原料とするRPFの製造・利用について基礎調査とFSを実施
2 静岡市
フエ市
フエ市における脱炭素社会実現に向けた都市間連携事業 ・省エネルギー

・再生可能エネルギー

・制度構築支援

・水素技術、スマートシティ

・その他(CCU)

地域脱炭素化の枠組みや温室効果ガス管理を支援。静岡市企業の技術導入を検討し、JCMを含む投資候補案件を形成
3 堺市
ダナン市
港湾インフラ等の脱炭素化に向けた都市間連携事業 ・省エネルギー

・再生可能エネルギー

・廃棄物管理

港湾、工業団地、商業施設、ホテルを対象に再・省エネ設備の投資候補案件を形成。ダナン市のグリーンポート政策も支援

出典:B&Companyの合成 第1回 そして 第2回 FY2026の

これらの事業では水素の製造、貯蔵、利用に関わる技術が取り上げられている。低炭素エネルギーキャリアとしての水素が日越の地方連携において一つの明確なテーマになりつつあることを示している。もっとも、取り組みの具体性には差がある。愛媛県とヴィンロン省の事業ではグリーン水素やアンモニアを明示的な調査対象としている。一方、フエ市やダナン市との事業では水素はより幅広い脱炭素施策の一要素として位置づけられている。

3. タイニン省、クリーンエネルギー協力の新たな舞台に

こうした流れの中、地方レベルの日越クリーンエネルギー協力の新たな事例として注目されるのがタイニン省である。同省には再生可能エネルギーのポテンシャル、拡大する産業基盤、日系製造業の存在という複数の条件が揃う。クリーンエネルギーの供給可能性に加え、産業部門で脱炭素を進める需要も見込まれ、グリーン水素の新たな用途を検討する余地がある。

こうした環境を背景に、企業レベルの事業検討、技術協議、地方政府間の協力が再生可能エネルギーとグリーン水素を軸に結びつき始めている。

■ 大林組、タイニン省で産業用水素の活用検討

2025年11月、東京で開催された投資促進会議でタイニン省は大林組と覚書(MOU)を締結した。大林組は同省の工業団地に進出する日系製造業が水素利用へ移行する際の支援に関心を示した。クリーンエネルギー技術と製造業が抱える排出削減ニーズを結びつけようとする取り組みである。このMOUによって具体的な投資案件が確定したわけではない。現段階では、タイニン省における産業用水素の活用可能性を検討するための初期的な協力枠組みと位置づけられる。[6].

【図1】大林組とタイニン省によるMOU署名式

【図1】大林組とタイニン省によるMOU署名式

出典: Baotayninh.vn

■ 山梨県との連携、グリーン水素を軸に具体化

2026年1月、山梨県関係者がタイニン省当局を訪問し、今後の協力分野について協議した。特に重点が置かれたのがグリーン水素と再生可能エネルギーである。この協議は両地域による正式な合意に向けた準備段階として位置づけられた。一般的な投資促進から一歩進み、クリーンエネルギーをテーマとする、より具体的な技術交流へと協力の焦点が移った形だ。[7].

その後、2026年5月にはタイニン省と山梨県が覚書を締結した。対象分野はエネルギー、農業、人材、観光、貿易、投資と幅広い。エネルギー分野では再生可能エネルギーとグリーン水素での協力強化を掲げ、カーボンニュートラルの実現に向けて経験や技術を共有していく方針が示された。[8].

【図2】タイニン省人民委員会と山梨県・長崎幸太郎知事による国際交流・協力MOU署名式

Tay Ninh Provincial People’s Committee and Yamanashi Governor sign an MoU

出典: Vietnam Plus.vn

4. 「協力枠組み」から「投資可能な案件」へ

日越のクリーンエネルギー協力は、政策的なコミットメントを積み上げる段階から具体的な事業を形成・実施する段階へ移りつつある。AZECやJCMといった制度的な枠組みに資金調達、FS、地方レベルのパートナーシップが重なり、日本企業が持つ技術とベトナム側のエネルギーニーズとの接点が以前より明確になってきた。

その中で、地方自治体間の連携は国家政策と個別プロジェクトをつなぐ役割を担い得る。地域の資源や産業ニーズに日本側の技術、専門知識、企業ネットワークを組み合わせることで、適地の特定、インフラ課題への対応、投資案件の発掘につなげられる。

一方、制度や技術、資金をそろえるだけでは事業化には至らない。実際のプロジェクトには明確な需要家、成立可能なビジネスモデル、定量的に把握できる排出削減効果、実務上機能する規制環境が不可欠となる。構想段階の案件を、どこまで具体的かつ実行可能な形に仕上げられるかが、その後の成否を左右する。

短期的には再生可能エネルギー、電力系統整備、省エネルギー、産業向けエネルギーマネジメントが比較的実現性の高い分野になるとみられる。グリーン水素についても関心は高まりつつある。ただし、現時点で多くの案件は調査・実証段階にとどまる。商用化にはコスト、インフラ、確実な需要の存在が鍵を握る。

まとめ

日越のクリーンエネルギー協力は政策、金融、技術、地方連携が相互に結びつくことで「協力枠組みの構築」から「具体的な案件形成」へと重心を移しつつある。タイニン省では、企業による産業用水素の活用検討と自治体間のグリーン水素協力が並行して進んでいる。現時点では具体的な投資案件が確定した段階ではないものの、政策協力と地域・産業のニーズを結びつける動きが形になり始めている。今後の焦点は、こうした協力枠組みを、実際の地域・産業ニーズに対応し、十分に準備された商業的に成立可能なプロジェクトへ転換できるかどうかにある。

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表紙写真: Baotayninh.vn

[1] https://www.meti.go.jp/english/press/2025/0429_001.html

[2] https://www.vietnamplus.vn/viet-nam-nhat-ban-mo-rong-hop-tac-chuyen-doi-nang-luong-sach-post1077533.vnp

[3] https://vir.com.vn/jbic-provides-120-million-green-financing-for-energy-transition-in-vietnam-151122.html

[4] https://vneconomy.vn/viet-nam-nhat-ban-day-manh-hop-tac-trong-linh-vuc-nang-luong-xanh.htm

[5] https://www.env.go.jp/earth/coop/lowcarbon-asia/english/project/

[6] https://baotayninh.vn/tay-ninh-to-chuc-thanh-cong-hoi-nghi-xuc-tien-dau-tu-tai-tokyo-nhat-ban-133932.html

[7] https://baotayninh.vn/tay-ninh-tang-cuong-hop-tac-nong-nghiep-cong-nghe-cao-va-nang-luong-tai-tao-voi-nhat-ban-135929.html

[8] https://www.vietnamplus.vn/tay-ninh-tang-cuong-ket-noi-voi-dia-phuong-giau-the-manh-cong-nghe-cua-nhat-ban-post1109339.amp

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