VNAから読み解くベトナム航空市場の現在地と飛躍の鍵

急成長を遂げるベトナム航空市場が今岐路に立たされている。定時運航率の低下、機材調達の遅延、そして国際便での顧客満足度低下といった課題が噴出する一方、利用者数は過去最高を記録し、ポストコロナの市場回復が鮮明になっている。本稿では、国営のフラッグキャリア「Vietnam Airlines(VNA)」を中心にベトナム航空業界の実像と今後の展望を多面的に読み解く。
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2025年5月19日

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急成長を遂げるベトナム航空市場が今岐路に立たされている。定時運航率の低下、機材調達の遅延、そして国際便での顧客満足度低下といった課題が噴出する一方、利用者数は過去最高を記録し、ポストコロナの市場回復が鮮明になっている。本稿では、国営のフラッグキャリア「Vietnam Airlines(VNA)」を中心にベトナム航空業界の実像と今後の展望を多面的に読み解く。

定時運航率に陰り、回復と再低下の波

ベトナムの航空各社における定時運航率はコロナ禍中の2020~2021年に一時的な高水準を示したものの、需要回復に伴う混雑や運航効率の低下により、2022年以降は再び下落傾向にある。2024年には大手のVietJet Airが63%台にまで落ち込む一方、VNAは83%と一定の安定性を維持している。

【図1】ベトナムの主要航空会社の定時運航率(%)

Vietnam Airlines VietJet Air Bamboo Airways Pacific Airlines VASCO Vietravel Airlines
2020 95.00 % 89.60 % 96.00 % 90.00 % 92.00 %
2021 95.00 % 90.00 % 96.50 % 91.00 % 93.00 %
2022 87.10 % 79.50 % 92.50 % 84.50 % 92.00 % 86.50 %
2023 86.80 % 79.00 % 92.40 % 84.40 % 91.00 % 86.60 %
2024 83.00 % 63.00 % 82.80 % 71.70 % 85.50 % 81.50 %

(2024年のデータは2024年1~9月期のもの)

一方、実際の遅延時間に目を向けると、VNAの平均は約45分であり、VietJet Airの60分超と比較すれば健闘しているものの、利用者にとっては依然として改善の余地がある水準だ。特にビジネス利用が多い国際線では時間の信頼性がブランド評価を大きく左右する。

機材の老朽化と供給の遅れ、運航効率に陰り

VNAの保有機材は現在約180機とされるが、実際に運用可能な旅客機数は150機程度にとどまる。背景には老朽化した機材の返却やリースバック契約の整理、そして新規機材の納入遅延がある。とりわけ「ボーイング737 MAX」問題は世界的に影響を及ぼしており、アラスカ航空での事故を契機に調達スケジュールが見直されていることが、VNAの計画にも波及している可能性が高い。加えて、ボーイングやエアバスの供給体制そのものが逼迫しており、新興国市場での需要急増が調達の遅れに拍車をかけている。

SNSに映る顧客の声、国際線に厳しい目

SNS分析によれば、VNAに対する批判の多くは国際線での遅延や急な運航変更に集中している。2024年初頭にはハノイ・シンガポール線で平均1時間超の遅延が頻発したとする報告もあった。一方、国内線については定時性への評価が比較的高く、全体の顧客満足度は安定しているとの指摘もある。

旅行会社関係者の間でも「統計上の遅延率は改善しているものの、サービス水準の実感としては改善途上」との声が多く、特に出張需要の高い路線では再予約や運航変更への迅速な対応が求められている。

利用者数、コロナ前を超え過去最高に

航空市場全体の回復スピードも注目に値する。2023年の国内外合計の航空利用者数は約1億2,500万人に達し、前年比29%増加と過去最高を記録。VNAはそのうち約2,400万人を輸送し、国内市場シェア21%を確保している。特に国内線はコロナ前の水準を既に上回っており、需要の底堅さを示している。国際線は依然として2019年比で約85%の水準にとどまるものの、2024年中の完全回復が見込まれている。

【図2】ベトナムの航空会社の利用者数(人)

国内線利用者数 (万人) 国際線利用者数 (万人)
2020 70 30
2021 75 32
2022 80 35
2023 85 40
2024 90 45

今後の展望:信頼回復と競争力強化へ

ベトナム航空業界が次の成長局面に向かうためには以下の3点が鍵を握る。

– 定時運航の徹底と情報公開:月次ベースでの定時運航率や遅延時間の公表により利用者の信頼を回復。

– 機材運用の最適化:新規機材の確保と稼働率の向上を両立させ、フライト供給能力を維持。

– サービス品質の再設計:SNSや旅行会社のフィードバックを活かし、特に国際線の顧客体験を改善。

今後はANAやJALなど日本の航空会社の事例も参考にしながら、透明性と品質管理の両面で国際基準に迫る姿勢が問われる。成長と課題が交錯するベトナム航空市場においてVNAがその未来の象徴となるか否か。試されるのは今である。

 

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