2025年7月25日
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都市化と中間層の台頭を背景に急成長してきたベトナムの家電量販店市場が転換点を迎えている。テレビや冷蔵庫、パソコンなどの耐久消費財を中心に構成されるこの業態は2019年からの4年間で店舗数を約2.9倍に伸ばしてきたが、2024年には初めて前年を下回った。リアル店舗からECへの購買移行が加速するなかで、業界には新たな役割と機能の再定義が求められている。
4年で3倍近くに膨張も、2024年は一転して110店減
2019年時点で約970店だったベトナムの家電量販店は2023年には約2,800店にまで拡大した。特に地方都市における展開が活発で、従来は大都市圏に偏っていた販売網が一気に全国に広がった格好だ。
【図1】家電量販店の地域別店舗数(店)
だが、2024年は全国で110店の減少となり、初の本格的な縮小局面に入った。縮小の兆しは2023年にハノイ市で先行して表れ、翌年にはホーチミン市や地方にも波及。過去数年の急拡大の反動ともいえる動きである。
販売の場はECへ、モバイルワールドも店舗削減に舵
急速な縮小の背景にあるのはオンラインシフトの加速だ。最大手であるモバイルワールド社傘下の家電チェーン「ディエンマイサイン」は2024年に店舗数を2,190店から2,026店へと約160店削減した。それでも売上は前年比7%増加の24億USDを記録しており、合理化と利益率の改善が進んだ可能性がある。
同社の携帯電話販売チェーン「テーゾイジードン」と合わせたグループ売上は36億USDにのぼる。このうちオンライン販売は約1割と依然として限定的ながら、今後の成長ドライバーとみられる。一方、Shopeeなどの大手ECプラットフォーム5社の売上は前年比37%増加の128億USDに達しており、家電を含む耐久財の購入チャネルとして、リアルからオンラインへの移行が鮮明になっている。
品揃え拡充も失敗、業態転換の難しさ露呈
リアル店舗側もECに対抗すべく、業態の再構築に取り組んでいる。モバイルワールドは一部店舗で生活用品や食品などの品揃えを拡大したが、売上は伸び悩んだ。従来のレイアウトや店舗規模を維持したまま商品数を増やした結果、専門性も利便性も中途半端になったと指摘されている。
日本型の「総合家電量販店」のモデルを導入するには商品管理、在庫回転、スタッフ教育といった多方面での体制刷新が必要であり、単なる商品拡充では対応しきれない構造的な課題が浮き彫りとなった。
空き店舗の業態転換進む、リアルは何を残せるか
今後、リアル店舗の減少は避けられないとみられている。すでに空き店舗の一部ではスーパーやアパレル路面店など、需要の高い業態への転換が進行している。ECとのすみ分けが進むなかで、家電量販店に求められるのは「在庫展示」や「即日受取」だけではない。
相談、修理、体験といった「来店の価値」をどう演出できるか。販売からサービスへと軸足を移し、地域に根ざしたショールーム的な機能やアフターサービス拠点としての進化が問われている。もはや、量販店は「物を売る場」ではなく、「選び方を手助けする場」へと転換すべき時にある。
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B&Company株式会社
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