ソーシャルコマース(S-EC)の進化
ソーシャルコマース(S-EC)はオンラインショッピングの進化形として登場した。Research & Market(米国の市場調査会社)のレポート(2022年5月)によると、ベトナムのS-EC市場は2022年に約22億USDとなり[1]、約65%の企業がS-ECを利用している[2]。
S-ECを利用している企業の割合(%)
(100%=6,879社)
出典:VECOM(ベトナムEC協会)
人気のECプラットフォーム(%:2023年)
出典:IDEA(ベトナム電子商取引デジタル経済庁)
IDEA(ベトナム電子商取引デジタル経済庁)のレポート(2023年7月)によると、「ソーシャルメディア」は好きなオンラインショッピングチャネルの2位で約55%が利用している。1位の「EC」(約61%)とは肉薄し、3位の「企業Webサイト」(約34%)とは大きく引き離している。また、好きなオンラインショッピングプラットフォームではソーシャルメディアの「TikTok」(約34%)が3位だった。
Decision Lab(ベトナムの市場調査会社)のレポート(2022年3月)によると、S-ECチャネルで人気な商品群は「ファッション」(約61%)、「化粧品」(約43%)[3]。これはソーシャルメディアの視覚と流行への訴求の相乗効果によるものと考えられ、最新の必需品に対する消費者の需要が継続的に増加している。
ソーシャルコマース(S-EC)の推進力
S-ECはベトナムで有望なビジネスモデルと考えられている。IDEA(ベトナム電子商取引デジタル経済庁)のレポート(2023年7月)によると、消費者向けEC市場は2017年から2023年にかけて年平均約22%で成長し、2023年には約205億USDとなった[4]。
消費者向けEC市場規模(十億USD)
出典:IDEA(ベトナム電子商取引デジタル経済庁)
ソーシャルメディアの利用者数は約7,000万人と人口の約71%を占める(2023年1月時点)[5]。購入前にソーシャルメディアで商品レビューを確認するのが好まれている。IDEA(ベトナム電子商取引デジタル経済庁)のレポート(2023年7月)によると、オンラインショッピング利用者の約52%が購入時にソーシャルメディアのコメントや評価を参考にしている[6]。また、S-ECの1つであるライブストリーミングは買い手と売り手のやり取りが容易で買い手が商品を詳細に観察できることから購買行動に大きな影響を与えている[7]。Coc Coc(ベトナムの検索エンジン)のデータ(2024年1月)によると、約77%がライブストリーミングセールを視聴したことがあり、そのうち約71%が購入に至っている[8]。
ソーシャルコマース(S-EC)の機会、課題
S-ECの進化は市場での優位性を高める機会となる。
まずは、数百万人以上の利用者に対して認知度を高めることができ、利用者同士の共有や交流を通じてオーガニックリーチを生み出せる[9]。VECOM(ベトナムEC協会)のレポート(2023年4月)によると、Webサイトやモバイルアプリを保有する企業の約59%がソーシャルメディアを通じて宣伝している[10]。
企業の宣伝方法(%:2023年)
出典:VECOM(ベトナムEC協会)
次に、Instagram InsightsやFacebook Audience Insightsなどの分析ツールで広告効果を高めることができる。分析ツールで得られた視聴者データによりターゲットを絞ったインパクトのあるキャンペーン立案に繋げられる。
また、商品発見から価格比較、購入までのショッピングジャーニーを集約して意思決定を早めることができる。メッセージング、チャットボットなどを通じて詳細な商品情報やガイダンスへのアクセスが容易になり、双方の関係強化に繋がる。顧客のフィードバックをタイムリーに収集することでアクション改善にも繋がる。
一方、課題もある。
参入障壁が比較的低く高度な競争力が求められる。その競争は企業間だけでなく、個人の販売者間でも激しい。
また、個人情報保護法(52/2013/ND-CP、13/2022/ND-CPなど)がコンプライアンスリスクとなる可能性がある。例えば、利用者が多い場合、個人情報の削除要求に72時間以内に対応するのが難しく、対応の遅れに繋がり、行政処分を科せられる可能性がある。また、小規模な企業ではコンプライアンスコストが増加しかねない。このような顧客情報の使用を厳しく制限する規制はECの成功に不可欠なターゲティング機能やパーソナライズ機能に影響を及ぼす可能性がある。
消費者の観点では、虚偽・誇大広告が常に問題となっている。Decision Lab(ベトナムの市場調査会社)のレポート(2022年3月)によると、S-ECのネガティブな体験について約60%が「商品が広告イメージと一致しない」と回答。それを忌避する人はファミリーストア(約75%)や実店舗のあるオンラインショップ(約48%)などを選択している[11]。
ソーシャルコマース(S-EC)の今後の展望
Research & Marketのレポート(2022年5月)によると、2024年のS-EC市場は約45億USD、2024年から2029年にかけて年平均約31%で成長する見込み[12]。企業は消費者に魅力的でパーソナライズされた購入体験を実現できるライブストリーミング機能の導入を検討すべきと考えられる。ライブストリーミングコンテンツ内でKOLによるレビュー、ガイダンスを活用していく企業が優位に立てるのではないだろうか。
[1] Research & Market(米国の市場調査会社)のレポート「Vietnam Social Commerce Market Intelligence Databook 2022」(2022年5月)
[2] VECOM(ベトナムEC協会)のレポート「Vietnam E-Business Index 2023」(2023年4月)
[3] Decision Lab(ベトナムの市場調査会社)のレポート「The State of Social Commerce & Live-streaming in Vietnam」(2022年3月)
[4] IDEA(ベトナム電子商取引デジタル経済庁)のレポート「Vietnam E-commerce White Book in 2023」(2023年7月)
[5] VNETWORK(ベトナムの通信プロバイダー)のレポート「Internet Vietnam 2023」(2023年10月)
[6] IDEA(ベトナム電子商取引デジタル経済庁)のレポート「Vietnam E-commerce White Book in 2023」(2023年7月)
[7] Doanh Nghiep Hoi Nhap(ベトナム中小企業協会の機関紙)のレポート「Vietnam’s Live-stream Market Witnesses a Sharp Increase」(2024年4月)
[8] Coc Coc(ベトナムの検索エンジン)のレポート「Emerging trends for Vietnamese consumers in 2023」(2024年1月)
[9] オーガニックリーチ:リーチのうち、有料広告によるリーチを除いたソーシャルメディア上のコンテンツを閲覧した人の数
[10] VECOM(ベトナムEC協会)のレポート「Vietnam E-Business Index 2023」(2023年4月)
[11] Decision Lab(ベトナムの市場調査会社)のレポート「The State of Social Commerce & Live-streaming in Vietnam」(2022年3月)
[12] Research & Market(米国の市場調査会社)のレポート「Vietnam Social Commerce Market Intelligence Databook 2022」(2022年5月)
B&Company株式会社
2008年に設立され、ベトナムにおける日系初の本格的な市場調査サービス企業として、業界レポート、業界インタビュー、消費者調査、ビジネスマッチングなど幅広いサービスを提供してきました。また最近では90万社を超える在ベトナム企業のデータベースを整備し、企業のパートナー探索や市場分析に活用しています。 お気軽にお問い合わせください info@b-company.jp +(84) 28 3910 3913 |
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