スマート農業の未来~持続可能なハイテク農業に向けて~

10 9月 2024

By: B&Company

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ベトナムの農業

農業はベトナム経済の3本柱の1つ[1]。工業、サービス業への移行が進み、GDP貢献度は12%程度を維持しながらその額は伸びている。2023年には約1.2兆VND(2012~2023年の年平均成長率は約7.2%)となり、GDPの約12%を占める。

農業のGDP額(兆VND)、GDP貢献度(%

出典:GSO(ベトナム統計総局)

主要農産物輸出額(兆USD

出典:GSO(ベトナム統計総局)

農産物の輸出額は世界15位(東南アジア2位)[2]。2023年の農産物貿易収支は120億USD以上の黒字[3]。主要品目は水産品、青果物、米、コーヒー、カシューナッツなど。

一方、課題もある。

第一に、小規模(非効率、高リスク)で付加価値、競争力ともに低いこと。食品の安全性、トレーサビリティ、環境に関する技術基準が高くなる中で生産に変化が求められる[4]

第二に、気候変動の影響である。海面が1m上昇するとメコンデルタの稲作の生産性が約41%下がる見込み。紅河デルタ、メコンデルタの大部分は2070年までに水没する可能性があり、漁業にも影響があるとされる[5]

第三に、熟練労働者の不足である。MARD(ベトナム農業農村開発省)の推計(2021年)によると、労働者の約57%が非熟練者である[6]。大半は高齢者で、2021年の50歳以上の割合は約43%[7]。そのため、訓練や技術移転などが難しい。

スマート農業の動向

これらの課題の解決策の1つがスマート農業である。スマート農業を導入すると(1)効果的な開発、管理により付加価値を高め、(2)生産者と情報の結び付きを強め、(3)投資効率を高め、環境負荷を軽減できる。

政府の政策では「2030年までの持続可能な農業農村開発戦略、2050年までのビジョン」(19/NQ-TW/2022)でスマート農業が取り上げられている。

システム導入事例としては、ラムドン省では野菜栽培温室システム、水耕野菜自動栽培システム、花畑完全自動灌漑システム[8]、メコンデルタでは稲作水管理システム、Tra Vinh大学(チャビン省)では湿式乾燥交互灌漑システムを導入している[9]

トレーサビリティ導入事例としては、Google、FPT(IT企業)、VAAS(農業科学アカデミー)、Univers Farm Organics(有機農業企業)、SOTANEXT(ブロックチェーン技術企業)の支援により農産物、医薬品の追跡プラットフォーム「VN Check」が開発され、国内市場から輸出市場までQRコードによる追跡が可能となった。

日本の協力事例としては、富士通による食・農クラウド「Akisai」の導入プロジェクトがある[10]。農産物の品質向上、生産性向上、コスト削減に貢献している。他にも、大田花きによる流通技術普及プロジェクト(ラムドン省)、Nikko Foodsによる高品質トマト開発プロジェクト(ラムドン省)などがある。

Seiko Ideas(コンサルティング会社)のレポート(2016年)によると、日本は農業生産の潜在性が高いベトナムへの投資の加速を決定[11]。これにより日本はベトナムで生産した農産物を関税0%で輸入でき、原料の70%がTPP域内で生産されたものでなければならないというCPTPPの要件も満たせる[12]

スマート農業の課題

まずは、スマート農業向けの技術供給が限られていること[13]MARD(ベトナム農業農村開発省)の推定(2024年1月)によると、国内企業は農業機械の需要の32%しか満たすことができず、市場シェアの約60~70%を外国企業が供給している[14]

次に、農業データベースが非同期であること。

また、農家は労働力の質が低く情報にアクセスして先進技術を利用するのが難しい。シンプルで使いやすく栽培方法や教育水準に適した解決策が求められる[15]

さらに、農業企業は技術投資向けの予算確保が難しい。MOST(ベトナム科学技術省)によると、農業企業の約43%がDX投資に困難を抱えている。投資の際には高コスト、低利益率となる[16]

スマート農業の展望

以上を踏まえて、ベトナムのスマート農業は発展の機会があると考えられる。

まずは、気候スマート農業(CSA)への需要が高まるだろう[17]。CSAは気候変動の悪影響に対応して食糧安全保障を安定させ、持続可能な開発を達成する農業生産方法であるが、CSA導入事例としては「スマート水管理、灌漑」、「改良品種の採用」、「土壌侵食の削減」など[18]。畜産では「バイオテクノロジーの利用」、「集約畜産」、「温室効果ガス排出削減技術」などがある[19]

次に、スマート農業での日越協力が推進されるだろう。コロナ禍以降、ベトナム人の健康や衛生に対する意識が高まり安全で高品質な農産物の需要が増加した。日本はベトナムの「2030年までの持続可能な農業農村開発戦略、2050年までのビジョン」(19/NQ-TW/2022)に基づき、「農業生産」から「農業経済」への意識改革を通じて農業のスマート化を支援している[20]

さらに、農業バリューチェーンの有効性を高めるためのスマート農業の開発が進むだろう。農産物サプライチェーン管理の開発、情報の透明性と産地の追跡可能性の確保が進むことで、関係者間の情報の結び付きを強め、農業生産と市場需要の一致が期待される。

 

[1] 農作物栽培、畜産、漁業、林業を含む

[2] VOV(ベトナムの声放送局)の記事「ベトナムの農産物輸出は世界15位」(2024年5月)

[3] Thoi Bao Tai Chinh(財務省傘下の電子新聞)の記事「ベトナムの農林水産物の貿易黒字は記録的な水準になる見通し」(2023年12月)

[4] Dai Bieu Nhan Dan(人民代表新聞)の記事「スマート農業は避けられないトレンド」(2024年7月)

[5] CIAT(国際熱帯農業センター)、WB(世界銀行)のレポート「ベトナムの気候変動に配慮したスマート農業」(2017年)

[6] MARD(農業農村開発省)のWebサイト「農業農村開発分野の人材育成に関する2030年までの戦略策定、2045年までのビジョン」(2023年12月)

[7] CIAT(国際熱帯農業センター)、WB(世界銀行)のレポート「ベトナムの気候変動に配慮したスマート農業」(2017年)

[8] AGRIDRONE(無人航空機会社)のWebサイト「ベトナムのスマート農業:効果的な解決策」(2023年3月)

[9] Dao The Anh(ベトナム農業科学アカデミー副会長)、Pham Cong Nghiep(農業システム研究開発センター研究員)のレポート「小規模農場のためのスマート農業:機会、課題、政策的解決策」(2022年6月)

[10] MPI(計画投資省)のWebサイト「ベトナムのハイテク農業が日本のFDIを誘致」(2015年3月)

[11] VCCI(ベトナム商工会議所)の記事「日本はベトナム農業への資本注入を急いでいる」(2016年7月)

[12] VCCI(ベトナム商工会議所)の記事「日本はベトナム農業への資本注入を急いでいる」(2016年7月)

[13] Dang Cong San(ベトナム共産党の電子新聞)の記事「ベトナムにおける持続可能なスマート農業の発展」(2023年7月)

[14] VnEconomy(ベトナム経済誌)の記事「ベトナムは農業機械メーカーにとって潜在的な市場である」(2024年1月)

[15] VnEconomy(ベトナム経済誌)の記事「ベトナムの農業がスマート農業になるための解決策とは」(2024年3月)

[16] VnEconomy(ベトナム経済誌)の記事「ベトナムの農業がスマート農業になるための解決策とは」(2024年3月)

[17] MIC(情報通信省)のWebサイト「スマート農業:農業生産における生産性、品質、効率性の課題に対する解決策」(2020年10月)

[18] MONRE(天然資源環境省)のWebサイト「気候変動に適応するスマート農業」(2021年11月)

[19] MONRE(天然資源環境省)のWebサイト「気候スマート農業ガイドライン」(2018年)

[20] Vietnam+(ベトナム通信社の電子新聞)の記事「日本はベトナムのグリーン農業経済発展を支援」(2023年11月)

 

B&Company株式会社

2008年に設立され、ベトナムにおける日系初の本格的な市場調査サービス企業として、業界レポート、業界インタビュー、消費者調査、ビジネスマッチングなど幅広いサービスを提供してきました。また最近では90万社を超える在ベトナム企業のデータベースを整備し、企業のパートナー探索や市場分析に活用しています。

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