By: B& Company
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2023年、ベトナムのエネルギー需要は前年比約9.2%増加した[1]。背景には産業活動の活発化や都市開発の進展を支える「年平均約5%の経済成長率」がある[2]。一方、この需要の伸びに対して供給は依然として化石燃料に依存している。現在、石炭がエネルギー需要の約47%、石油が約25%を占め、これが温室効果ガスの排出量を増加させている[3]。2017年から2023年にかけて排出量は約46%増加し、年間約3.72億トンと過去最高に達した[4]。
こうした課題に対応するため、政府は2019年の「第7回中央委員会会議」で石炭や化石燃料の削減と液化天然ガス(LNG)への移行を明確に打ち出した。よりクリーンで安全なエネルギーへの転換を目指し、温室効果ガスの削減を加速している。
2023年、ベトナムはPetroVietnam Gasが運営する「Thi Vai LNG Terminal」を通じて初めてLNG市場に参入した。このターミナルの年間処理能力は100万トンで2025年には発電所への供給が予定されている[5]。さらに、2024年には「Cai Mep Terminal」(同300万トン)の稼働が見込まれており、LNGの輸入、処理能力が大幅に向上する予定である[6]。
また、「第8次電力開発計画(PDP8)」では2030年までにLNG火力発電能力を22.4GW(総発電設備容量の約15%)まで引き上げる目標が設定されている[7]。Wood Mackenzieの予測では、ベトナムのLNG需要は年平均約12%で増加し、2030年代半ばには需要が現在の約3倍に達する可能性があるとされる[8]。
しかし、LNGインフラの能力は依然として課題である。「Thi Vai LNG Terminal」(年間100万トン)、「Cai Mep Terminal」(同300万トン)の能力はタイの「Map Ta Phut」(同1,000万トン)[9]、シンガポールの「SLNG Terminal」(同1,100万トン)[10]に比べて低い水準に留まっている。このギャップはインフラ開発の加速が必要であることを示している。
ベトナムはエネルギー源の多様化と石炭依存からの脱却を目指し、外国企業の投資を積極的に受け入れている。
【図1】主要国際協力プロジェクト(LNG分野)
Son My LNG Terminal | LNG Terminal | Block B | |
種類 | LNG火力発電所 | LNG火力発電所 | ガス田 |
協力企業 | AES Corporation(米国) | JERA(日本) | 三井物産(日本) |
運用状況 | 2027年運用開始 | 計画中 | 2026年運用開始 |
協力形態 | PV Gasとの協力 | 外国投資 | PVN、PVEP、PV Gas、PTTEPとの協力 |
資料:B&Company[11]
Delta Offshore Energy(シンガポール)などの企業はEVN(ベトナム電力公社)と提携し、国際的なLNG供給入札を実施した。この入札には29件以上の応募が集まり、外国企業の関心の高さを示した[12]。
【図2】主要LNGエネルギー政策
55-NQ/TW | 893/QD-TTg | 500/QD-TTg | |
発行日 | 2020年2月 | 2023年7月 | 2023年5月 |
政策名 | エネルギー開発に関する2030年までの戦略、2045年までのビジョン | 2021~2030年のエネルギーマスタープラン、2050年までのビジョン | 2021~2030年の電力開発マスタープラン、2050年までのビジョン |
LNG開発促進に関する条件 | • 2030年までに約80億㎥、2045年までに約150億㎥のLNGの輸入能力を確保
• ガス産業のインフラ開発を促進し、LNGの輸入、消費に対応するための投資を優先 |
• LNG港湾倉庫の建設を実施し、LNG、CNGガスの輸入を増加
• 国内外の投資家と連携を強化し、LNG火力発電所、LNG輸入ターミナルインフラを開発するよう企業を指導 |
• LNG火力発電所の緊急開発を実施し、発電のための最大限のガス使用を優先
• 適切な規模に基づいてLNGプロジェクトを開発し、LNG輸入インフラを構築 • 2050年までにLNG発電容量25.4GW、発電量1,380億kWh |
資料:B&Company
特に、「第8次電力開発計画(PDP8)」では北部と南部を中心にLNG発電所や輸入ターミナルの建設計画が進められており、2050年までにこれらのプロジェクトが完了する予定である。このような明確な指針と定量的な目標は外国投資家に安定した規制環境を提供している。
【図3】LNGエネルギー開発計画(2023~2050年)
資料:Baker McKenzie Research
LNG市場は需要の急増、政府の支援、そして国際的な投資によって成長している。しかし、輸入LNGへの依存が高まることで国際収支や外貨準備への負担が懸念される。また、LNGプロジェクトの収益性は再生可能エネルギーなど気候に優しい代替エネルギーとの競争によって圧迫される可能性がある。
それでも尚、ベトナムのLNG市場は東南アジアにおけるエネルギー分野での長期的な投資機会を提供する市場として注目されている。特に、まだ成熟していないこの市場に早期参入する企業にとっては大きな利点がある。
LNGはベトナムのエネルギー転換の中核を担う存在である。政府の支援、インフラの整備、そして国際企業との協力を通じて、ベトナムは温室効果ガス削減とエネルギー需要のバランスを両立しようとしている。これにより、LNG市場は今後も成長を続け、持続可能なエネルギーの実現に向けた重要な役割を果たすだろう。
[1] 出典:Statista(ドイツの統計データプラットフォーム)のWebサイト「Vietnam Primary Energy Consumption」(2024年11月)
[2] 出典:Statista(ドイツの統計データプラットフォーム)のWebサイト「Vietnam GDP Growth Rate from 2019-2029」(2024年11月)
[3] 出典:Statista(ドイツの統計データプラットフォーム)のWebサイト「Vietnam Energy Consumption by Type of Fuel」(2024年11月)
[4] 出典:World Energy Institute(英国のエネルギー産業専門機関)のレポート「Statistical Review of World Energy」(2024年6月)
[5] 出典:The Investor(ベトナム外国投資企業協会のオンライン誌)のニュース「Vietnam First LNG to Power Plant」(2024年11月)
[6] 出典:The Reuters(英国のニュース配信機関)のニュース「Vietnam’s Second LNG Terminal Begin Commissioning Tests」(2024年8月)
[7] 出典:Vietnam Briefing(ベトナムの直接外国投資関連メディア)のニュース「Vietnam’s National Electricity Development Plan」(2023年5月)
[8] 出典:Vietnam Economic Times(ベトナムの経済専門メディア)のニュース「Vietnam LNG Demand Expected to Increase by 3 times by 2030」(2024年)
[9] 出典:The LNG Industry(英国のエネルギー専門メディア)のニュース「Room for LNG Growth in Asia」(2024年)
[10] 出典:The Reuters(英国のニュース配信機関)のニュース「Singapore and Japan LNG Deals」(2024年)
[11] 出典:PVN(Vietnam Oil and Gas Group)、PVEP(PetroVietnam Exploration Production)、PV Gas(PetroVietnam Gas)、PTTEP(PTT Exploration and Production Public)
[12] 出典:Vietnam Investment Review(ベトナム投資省の機関紙)のニュース「4 billion USD in Investment for LNG Projects」(2024年2月)
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