ベトナムの畜産業の成長と外資企業の参入

18 2月 2025

By: B& Company

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急成長するベトナムの畜産業

ベトナムの畜産業は同国の農業経済において重要な役割を果たしており、近年急速に成長を遂げている。2024年には市場規模が260億USDを超え、農業GDPの約26%を占めると予測される[1]。特に豚肉や鶏肉、卵、牛乳の生産が活発で畜産業全体の成長を牽引している。

豚肉と鶏肉の生産は特に顕著で2024年には食肉生産の90%以上を占める見込み[2]。2019年から2024年の間に豚と鶏の個体数はそれぞれ年平均6%と4%の増加を記録[3]。一方、牛の数は変動が大きく、水牛の数は減少傾向にある。米国農務省(USDA)のデータによると、2024年のベトナムの豚肉生産量は小売重量ベースで355万トンに達し、世界6位となる見通しである[4]

【図1】畜産業の主要食肉製品(生体重ベース)(%

100%=6,350
畜産業の主要食肉製品

資料:GSOMARD

ベトナムの食肉貿易:輸入依存が続く

国内の生産能力が向上しているものの、ベトナムの食肉貿易は大幅な赤字を抱えている。2023年には食肉の輸入額が15億USDに達したのに対し、輸出額はわずか1.1億USDにとどまった[5]。特にインド産の冷凍牛肉の輸入が目立ち、2023年には輸入総額の44%に当たる6.6億USDを記録(図2)。また、アフリカ豚熱(ASF)の影響で国内供給が不足し、豚肉の輸入も急増。2023年には輸入食肉全体の19%を占めるまでになっている(図2)。

【図2】食肉輸入構成(%2023年)

食肉輸入構成(%:2023年)

資料:Trade Map

外資企業の進出が進む畜産市場

ベトナムの畜産業には外資企業の進出が加速しており、2022年には畜産分野の外国直接投資(FDI)プロジェクトが81件に達した[6]。これは農林水産業全体の16%を占め、総投資額は22億USDに及んでいる[7]

外資企業の影響力は特に豚肉と鶏肉市場で顕著である。2022年の豚肉市場では外資企業が供給の43%を占め、農家が38%、内資企業が19%という構成になっている[8]。さらに、ベトナム家禽協会(VIPA)によると、白羽鶏市場では90%、伝統的品種鶏市場では55%を外資企業が支配している[9]

日本企業にとっての投資機会

日本企業のベトナム畜産業への投資はまだ限定的であるが、市場の成長とともに新たなビジネスチャンスが生まれている。

<国内需要の増加と輸出拡大>

ベトナム国内では食肉消費量が増加しており、特に豚肉の需要が伸びている。また、政府は中国やハラール市場向けの輸出ルートを開拓しており、日本との貿易拡大も進めている。その一例として、Koyu&Unitek児湯食鳥のベトナム拠点)は高品質な動物用飼料と最新の生産設備を活用し、日本向けの鶏肉輸出を成功させた初のベトナム企業となった。さらに、2021年にはVinamilk(ベトナム乳製品メーカー)の子会社であるVilico(ベトナム畜産総公社)と双日が提携し、年間1万頭の牛と1万トンの畜産物を生産する5億USD規模の畜産・食肉処理施設を設立[10]。この事例は日本企業がベトナム畜産業へ進出する可能性を示している。

【図3Vinabeefの畜産・牛肉加工工場(ビンフック省)

Vinabeefの畜産・牛肉加工工場(ビンフック省)

資料:Vinabeef

<動物飼料分野での投資機会>

ベトナムは動物飼料の主要輸入国であり、国内生産の競争力はまだ低いのが現状である。そのため、政府は動物飼料産業の強化を目的とした支援策を打ち出しており、2024年には「畜産経営の効率化を支援する政策に関する規制」(106/2024/ND-CP)が施行。これにより、飼料原料の供給や生産を促進するための財政的インセンティブが提供される。

【図4】家畜飼料供給を支援するための財政的インセンティブ

奨励対象の活動 財政支援額

(百万VND/件)

原材料栽培地域の確立のための技術インフラの構築 最大5,000
原材料加工用の資材、設備の購入 最大1,000
飼料添加物の原料を製造するための外国製設備の購入 最大2,000
飼料添加物の単一成分を製造するための外国技術ライセンスの購入 最大2,000
中規模・大規模畜産農場向けのバルク飼料貯蔵タンクの購入 最大100
動物飼料用の植物品種の購入 最大200

資料:106/2024/ND-CP

<投資の課題とリスク>

投資を検討する際にはいくつかの課題にも注意が必要である。

– 家畜の疾病リスク:アフリカ豚熱(ASF)などの疾病が発生すると、生産量や価格に大きな影響を及ぼすため、衛生管理の強化が不可欠である。

– 貿易競争の激化:環太平洋パートナーシップ包括的・先進的協定(CPTPP)により、2030年までに日本の食肉製品の関税率が0%になるため、安価な輸入食肉がベトナム市場に流入し、競争が激しくなる可能性がある。

まとめ

ベトナムの畜産業は急成長を遂げており、今後も投資機会が広がると予測される。外資企業が市場で大きなシェアを持つ中、動物飼料や加工技術の分野では日本企業が進出する余地は十分にある。ただし、疾病リスクや市場競争の激化といった課題もあるため、慎重な市場分析と戦略的な投資判断が求められる。


[1] 出典:Vietnam Livestock Magazine(ベトナム畜産協会の公式出版物)のニュース「Livestock Production Value Accounts for Nearly 6% of National GDP」(2023年8月)、MARD(ベトナム農業農村開発省畜産局)のニュース「Vietnam’s Pig Farming Situation in 2023」(2024年1月)、MARD(ベトナム農業農村開発省畜産局)のニュース「Livestock Product Export Turnover in 2024 Reaches Over 533 Million USD」(2025年1月)、Vietnam Financial Times(ベトナムの経済新聞)のニュース「The Livestock Sector Accounts for Over 26% of GDP」(2025年1月)

[2] 出典:GSO(ベトナム統計総局)の「Statistical Yearbook」(2023年7月)

[3] 出典:GSO(ベトナム統計総局)の「Statistical Yearbook」(2023年7月)

[4] 出典:USDA Foreign Agricultural Service(米国農務省海外農業局)のデータ「Production – Pork」(2025年1月)

[5] 出典:International Trade Centre(国際機関の貿易情報ポータル)のデータ「Trade Statistics for International Business Development」(2025年1月)

[6] 出典:MARD(ベトナム農業農村開発省畜産局)のニュース「Promoting Pig Farming Development in the New Situation」(2023年7月)

[7] 出典:GSO(ベトナム統計総局)の「Statistical Yearbook of Vietnam 2022」(2023年6月)

[8] 出典:Vietcombank Securities Company(ベトナムの証券会社)のニュース「Pig Farming Industry Report: Rising from the Mud」(2023年5月)

[9] 出典:Vietnam Livestock Magazine(ベトナム畜産協会の公式出版物)のニュース「Prospects for White Feather Chicken Farming in Vietnam」(2024年3月)

[10] 出典:Nhan Dan Newspaper(ベトナム共産党の公式機関紙)のニュース「Vinamilk Starts Work on Tam Dao Beef Cattle Farming and Processing Project」(2023年3月)

 

B&Company株式会社

2008年に設立され、ベトナムにおける日系初の本格的な市場調査サービス企業として、業界レポート、業界インタビュー、消費者調査、ビジネスマッチングなど幅広いサービスを提供してきました。また最近では90万社を超える在ベトナム企業のデータベースを整備し、企業のパートナー探索や市場分析に活用しています。

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