
2025年6月23日
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ベトナムでインターナショナルスクールの開校が相次いでいる。経済成長に伴い教育投資意欲が高まる中、従来の公教育に不安を抱える保護者層を取り込みつつある。だが、教育の質や情報の不透明さといった課題も浮き彫りとなっており、持続的な成長には業界全体の透明性とガバナンスが問われる。
この10年で3分の1が新設、都市部中心に急増
【図1】インターナショナルスクール数(校)
International School Databaseのデータによると、現在ベトナム国内には77校のインターナショナルスクールが存在し、そのうち27校(約35%)は過去10年以内に開校した。地域別ではホーチミン市が最多の35校、ハノイ27校、ダナン6校で、他の地方都市にも徐々に広がりを見せている。
また、全体の約6割(43校)が幼稚園から高校までの一貫教育を提供しており、残る学校も「K~中学」や「小~高校」など比較的長い教育課程を持つ。これは、多額の施設投資が求められるインターナショナルスクールにおいて学年の縦割り運営による収益の最大化を狙った構造といえる。
学費に5倍超の開き、都市と地方の格差も
学費水準は学校によって大きく異なる。小学校段階で年間約5,000~30,000USD、高校では6,000~36,000USDと5倍以上の差がある。2大都市におけるトップ校では校舎や教育設備への初期投資が数十億円規模に上るケースもあり、生徒数1,000人、年間学費30,000USDと仮定すれば年商50億円規模のビジネスとなる。一方、地方都市では施設・学費水準ともに抑えられ、より中間層向けのスクールが主流だ。
外国人児童よりベトナム人家庭の志向が牽引
スクール増加の背景には外国人駐在員の流入もあるが、実際の在校生の大多数はベトナム人家庭の子どもたちである。背景には依然として公立学校への不満と教育水準への不安がある。都市部を中心に経済力がついた家庭が「グローバル教育」を求めてインターナショナルスクールへと流入しており、これは中間層の教育観の変化を象徴している。親世代のキャリアと経験を反映し、「大学は海外」、「就職は外資系」という選択肢を意識した投資が強まっている。
「名ばかりインター」も、情報の整備が急務
一方で、教育の質のばらつきは深刻な課題だ。「インターナショナルスクール」を名乗りながら、実態はベトナム語の授業が中心で、カリキュラムや教師陣の国際性が限定的というケースも散見される。認可制度や基準の明確化が求められる段階にあるといえる。
近年は、 一般私立校でありながら国際教育に力を入れる「Vinschool」のような存在も注目を集めている。こうした中間価格帯・高水準の学校はインターナショナルスクールと私立校の境界に位置し、保護者の選択肢を広げている。しかし、現状では一貫して教育内容・学費・進学実績を比較できる情報基盤が未整備であり、保護者が適切な学校を選ぶためには口コミや現地視察に頼らざるを得ないのが実情だ。
持続的発展に向けて、情報の透明化と政策対応を
教育は将来への最大の投資だ。ベトナムにおけるインターナショナルスクール市場は今後も拡大が続くと見られるが、同時に質と信頼性の確保、そして情報の整備・公開が不可欠である。公教育の改善と民間教育の健全な競争が並行して進むことが次世代の人材育成と国際競争力向上に直結する。「教育を選ぶ自由」を支える環境づくりが今問われている。
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