By: B& Company
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農林水産業はベトナム経済の根幹を成す重要な産業である。2012年から2023年にかけて年平均成長率7.2%を記録し、経済が停滞する時期にも安定的な成長を遂げている。2023年には市場規模が約1.2兆VNDに達し、GDPの約12%を占めるまでになった(図1)。
【図1】GDPに占める農林水産業の割合(%)
資料:ベトナム統計総局(GSO)
農林水産物は輸出品としても大きな役割を果たす。ベトナムは現在、農産物輸出で東南アジア2位、世界15位に位置すると報告されている[1]。2023年時点での栽培面積では「穀物」が全体の半分以上を占め、「果物」、「工業用作物(多年生作物)」と次ぐ(図2)。
【図2】作物作付面積(%:2023年)
資料:ベトナム統計総局(GSO)
しかし、生産規模では小規模生産が依然として主流である。2020年時点で農村部の農林水産業に従事する世帯が約910万世帯となっている。その内訳は農業が約810万世帯、林業が約16万世帯、漁業が約78万世帯[2]。
政府は農業の機械化を重要課題として掲げている。首相決定「農業の機械化、農林水産加工技術の開発に関する2030年に向けた戦略」(858/QD-TTg:2022年7月)では機械化の発展を「付加価値の向上」、「持続可能な発展」に不可欠とし、「生産チェーンの統合」、「先進技術の活用」を目指す方針を示した[3]。特に生産物加工やスマート技術の活用を促進する政策が進められている。
【図3】分野別の機械化率の目標(2030年)
農業 | 畜産業 | 水産養殖業 | 漁業・保存加工業 | 林業 | 塩業 |
70% | 60% | 90% | 95% | 50% | 90% |
資料:858/QD-TTg
地方でも農業協同組合や個人業者が機械や技術を導入しており、機械化の取り組みが進んでいる(図4)。ハイズオン省(北部)では稲作の機械化率100%を目指し、「足跡のない田んぼ[4]」と呼ばれる完全機械化モデルが約1,000haで導入されている[5]。また、フンイエン省(北部)では稲刈機627台を保有し、稲刈作業の機械化率は約96.5%に達している[6]。
【図4】小規模事業者の導入機械、関連技術の例
農業 | 畜産業 | 水産養殖業 | 漁業・保存加工業 |
プラウ付耕運機
ロータリー式耕運機 農薬散布機 コンバイン収穫機 田植機 芝刈機 農薬散布ドローン 有機肥料ペレット機 |
家畜収容設備
飼料混合機 草刈機 自動給水設備 飼料ペレット機 |
自動給餌装置
藻類除去吸引装置 曝気装置 水質測定器 二枚貝収穫用掘削機 |
ハイブリッド冷凍保存技術
ナノ超微細気泡保存技術 スラリーアイス保存技術 |
資料:B&Company
機械化は進展しているが、農業生産は依然として小規模で土地区画の細分化や低所得層が主流であることが課題となっている。農業機械の需要を国内生産では32%しか満たしておらず[7]、残りの60~70%は外国メーカーに依存している[8]。このような背景から全国一律で機械化を進めることが難しい。
しかし、こうした課題は同時にチャンスでもある。政府と地方自治体の支援により、小規模生産者向けの農業機械市場が今後も拡大する見込みである。日本製の機械は以前からベトナム市場で高く評価されており、特にKubotaやYanmarといった日本メーカーは耕運機や田植機で成功を収めている。
Yanmarは2014年のベトナム拠点設立。2018年にはAGRIBANK(ベトナム農業農村開発銀行)と協力し、農家がAGRIBANKの資金を通じてYanmarの製品を導入できる仕組みを整備した[9]。Kubotaは2008年の市場参入以降、全国に30以上の支店を展開している[10]。
また、JICA(国際協力機構)による支援の下、日本は農業インフラの改善や老朽化した灌漑システムの回収、農業政策の策定支援、人材育成などでベトナムと連携を深めている[11]。
農業生産と機械化設備を結びつけ、地方自治体での技術インフラの整備は引き続き優先課題とされるだろう。また、科学技術研究の強化や技術開発を進めることがこの分野の成長にとって重要な要素となる。
日本企業にとっては技術開発分野への投資機会やベトナムの小規模農業の需要に応じた機械ソリューションの提供が大きなビジネスチャンスとなるだろう。例えば、コストパフォーマンスの高い製品や現地の環境に適応した機械の開発が競争力を高めるカギとなる。
ベトナムの農業機械市場は日本企業にとって魅力的な成長分野であり、持続可能な農業の実現に貢献する可能性を秘めている。政府の支援や現地パートナーとの連携を最大限活用することで新たな成功の道を切り開くことができるだろう。
[1] 出典:VTV4(国営テレビ局)のニュース「Vietnam is among the top 15 largest agricultural product-exporting countries in the world」(2024年)
[2] 出典:GSO(統計総局)のレポート「Press Release on the Results of the 2020 Mid-Term Rural and Agricultural Survey」(2021年6月)
[3] 出典:首相決定「農業の機械化、農林水産加工技術の開発に関する2030年に向けた戦略(858/QD-TTg)」(2022年7月)
[4] 小規模農家の生産工程全体の機械化モデル(省全域で実施)
[5] 出典:Bao Nhan Dan(共産党の中央機関紙)のニュース「Enhancing Production Efficiency through Agricultural Mechanization」(2023年3月)
[6] 出典:Dang Bo Tinh Hung Yen(フンイエン省党委員会のWebサイト)のニュース「Promoting Mechanization in Agricultural Production」(2024年3月)
[7] 出典:Bao Kiem Toan Nha Nuoc(国家監査機関の公式新聞)のニュース「Mechanization – The Driving Force to Enhance Agricultural Production Efficiency」(2023年11月)
[8] 出典:MTA Vietnam(製造業の国際展示会)のニュース「Vietnam is a potential market for manufacturers of agricultural machinery and equipment」(2024年1月)
[9] 出典:Yanmarのプレスリリース「The Launch Conference for the Cooperation Agreement between Yanmar and Agribank in Hanoi」(2018年4月)
[10] 出典:KubotaのWebサイト「Home」(2024年)
[11] 出典:Mekong ASEAN(オンラインメディア)のニュース「Strengthening Green Agriculture Cooperation Between Vietnam and Japan」(2023年9月)
B&Company株式会社
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