2025年8月6日
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ベトナムにおける環境対応型車両の広がりが加速している。ガソリン価格の高止まりや消費者の環境意識の高まりを背景に電動化への関心は年々高まっているが、ここで注目されるのがバッテリーを搭載しながらも充電を必要としない「ハイブリッド車(HEV)」である。その普及は着実に進んでいるものの、電気自動車(BEV)との間に横たわる税制上の格差が今後の成長の行方を左右しそうだ。
日本勢が独占するハイブリッド市場、5車種で8割占有
ベトナム市場におけるハイブリッド車の先駆けとなったのは2020年に登場したトヨタ「Corolla Cross HV」であった。その後、ホンダ「CR-V」、トヨタ「Innova Cross」、スズキ「XL7」、「Ertiga」などが相次ぎ投入され、2024年にはHEVの新車販売台数は約9,900台に達し、新車全体の約2%を占めるまでになった。
販売の中心は日本車がほぼ独占しており、上記5車種だけで市場全体の8割以上を占める。いずれも中価格帯でありながら一定の燃費性能を備え、都市部の中間層を中心に支持を集めている。
【図1】HEV、EVの新車販売台数シェア(%)
高まる燃費志向、課題は価格と税制の逆転現象
Deloitteが2024年3月に実施した消費者調査によれば、HEVやBEVを選ぶ理由として「燃料コストの安さ」と「気候変動への懸念」が上位に挙げられた。とりわけ、2021年の燃料価格高騰以降、エネルギー効率の高い車両に対する関心は大きく高まっている。
一方、ベトナムにおいてHEVがBEVに比べて伸び悩む大きな要因は税制にある。現行制度ではHEVの特別消費税率が21~150%であるのに対し、BEVは2022~2027年の暫定期間中はわずか1~5%に抑えられている。具体例で見ると、スズキ「Ertiga」(HEV)の販売価格は本体価格21,500USD+税約3,500USD=約25,000USD。これに対し、VinFast「VF5」(BEV)は本体19,160USD+税約890USD=約20,500USDと明確な価格差が生じている。
こうした逆転現象により、充電インフラ不要というHEVの利便性が価格面で埋もれてしまっているのが現状だ。
BEVとの取り合いが始まる中で、政策の行方が鍵に
今後、HEVとBEVは「環境車」として同じフィールドで消費者の選択肢を競合する関係になる。特に中間所得層の購買決定において価格差は決定的な意味を持つ。
ベトナム国内ではVinFastや中国BYDなどBEVメーカーの市場投入も活発だが、昨年登場したBYD車は25,000USD以上とやや高めで、販売台数はまだ限定的とみられる。現状、普及価格帯のBEVはVinFastが優位を保ち、HEVとの価格競争をリードしている。
政策的支援の再設計が市場多様化のカギに
ベトナム政府はBEVを「未来のモビリティ」と位置づけ、輸入税・登録税の優遇措置を講じてきた。これにより、短期的にはBEVの普及を後押ししてきたが、一方で技術的・運用的に安定した選択肢であるHEVが冷遇されているという指摘もある。
今後、EVインフラの整備状況や都市部での交通制限の導入状況によってはHEVが再評価される余地も大きい。特に地方都市や長距離移動を重視するユーザー層にとってはHEVの手軽さと燃費効率が魅力となり得る。
HEVの伸びは続くのか。それとも税制が背を押すBEVに取って代わられるのか。両者が交錯する中で、今後の政策動向が市場の行方を大きく左右することは間違いない。
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B&Company株式会社
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