2026年9月11日
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ベトナム市場は日系企業の進出先として引き続き高い人気を誇り、経済成長率も安定して高い水準を維持している。しかし、市場そのものが伸びているにもかかわらず、進出後に想定した収益に届かない日本企業は少なくない。
売上計画が未達に終わる背景には、市場規模の見立てそのものよりも「競合の実像を掴めていないこと」が根本原因として存在するケースが多い。本記事では、ベトナムで競合調査がなぜ重要なのか、何を調べるべきか、どのような情報源を使い、費用はどの程度かかるのかを、実務の観点から一気通貫で解説する。
なぜ今ベトナムで競合調査が重要視されるのか
ベトナムは中間所得層の拡大とともに、価格帯や購買チャネルが短期間で多層化している市場である。都市部と地方部で購買力の差が広がり、EC経由の購買とオフライン店舗での購買が併存するなど、消費構造そのものが変化を続けている。そのため、数年前に有効だった競合マップが、現在ではすでに実態と乖離しているという事態が頻繁に起きる。
日本企業が苦戦する背景には、いくつかの共通するパターンが存在する。競合の定義を同業の日系企業のみに絞ってしまい、地場企業や第三国企業の動きを見落としてしまうこと。価格やチャネルの前提を日本市場の常識のまま置いてしまい、現地の実勢と大きくずれてしまうこと。
そして、現地企業や新興プレイヤーと比較して、意思決定のスピードそのものに差が生じてしまうこと。これらは特定の企業に限った問題ではなく、多くの進出企業に共通して見られる構造的な課題である。
陥りやすいデスクトップ調査の落とし穴
公開情報だけを頼りにした調査には、構造的な限界がある。財務データや事業概要から読み取れるのは、あくまで結果として現れた数字が中心であり、その数字がどのような意図で作られたのかまでは見えてこない。価格設定の背景にある戦略や、代理店との実際の取引条件、現場の営業担当者が肌で感じている競合評価といった情報は、公開資料の外側に存在している。
さらに見落とされやすいのが、日本市場の常識をそのまま当てはめてしまう読み違えである。流通構造、購買行動、意思決定者の位置づけといった前提条件がベトナムでは大きく異なるにもかかわらず、日本での経験則をもとに市場規模を解釈してしまうと、自社が実際に獲得できるシェアの見立てそのものが狂ってしまう。
ベトナム競合調査で押さえるべき調査項目と対象者別に得られる情報の違い

出所:B&Company作成
押さえるべき調査項目の全体像
競合調査で確認すべき項目は多岐にわたるが、代表的なものとしては次のような領域が挙げられる。企業概要や資本構成として出資関係やグループ体制、投資動向。製品ラインと価格として建値と実勢価格の差、SKU構成。販売チャネルとして代理店の構造、マージン設計、EC比率。生産・調達体制として工場の所在地、生産能力、調達先。加えて、販促活動やブランド認知の状況、組織・人員体制、今後の投資計画なども重要な確認事項となる。
これらすべてを網羅的に調べる必要はない。自社が何を判断したいのか、どの意思決定のために情報が必要なのかによって、優先順位を明確に決めることが調査設計の出発点となる。
情報環境の特殊性と使える情報ソース
ベトナムでは、未上場企業の比率の高さや、統計の更新頻度・粒度の違いから、企業情報の開示範囲が日本ほど一様ではない。この点が、調査の難易度を上げている大きな要因の一つである。
主要な情報源には、国家企業登録ポータル、国家統計局(NSO)が公表する統計、税関統計、上場企業のIR資料および年次報告書、業界団体の資料、ECプラットフォーム、SNSプラットフォーム上のソーシャルリスニングが含まれる。ただし、これらの情報源は主に登録された数値や公開情報を提供するものであり、実際の市場価格、販売代理店との具体的な取引条件、現場における製品評価を把握できないことが多い。.
加えて、伝統小売やライブコマースを通じた取引など、記録として残りにくい商流も市場の相当部分を占めている。これがベトナムの情報環境における最大の特殊性であり、デスクトップ調査だけでは実態把握に限界が生じる理由である。
ベトナム競合調査で活用できる情報ソースの比較表
| 情報ソース | 種別 | 分かること | 分かりにくいこと |
| 国家企業登録ポータル | 公的機関 | 企業の登記情報、資本金、代表者、事業目的 | 実際の稼働状況、事業実態 |
| 国家統計局(NSO) | 公的統計 | 業界規模、成長率、マクロ指標 | 個社別のシェアや動向 |
| 通関統計 | 公的統計 | 品目別の輸出入数量・金額 | 販売先・最終顧客、国内転売価格 |
| 上場企業のIR資料・年次報告 | 一次情報(公開) | 財務状況、事業セグメント別業績、経営方針 | 現場レベルの価格戦略、代理店条件 |
| 業界団体資料 | 二次情報 | 業界全体の動向、規制動向 | 個社の競争戦略 |
| ECプラットフォーム | 準一次情報 | 掲載価格、レビュー、売れ筋 | 卸価格、実店舗での実勢条件 |
| SNSソーシャルリスニング | 準一次情報 | 消費者の評価、話題性 | 取引条件、代理店構造 |
出典: B&Company
ヒアリング調査が意思決定を左右する場面
ヒアリング調査が特に重要になるのは、参入可否や価格帯を判断する初期段階、販売チャネルやパートナー候補を見極める段階、そして撤退や事業再編を検討する局面である。いずれも、公開情報だけでは判断材料が不足しがちな、事業の分岐点となる場面である。
対象者別に得られる情報の違い
ヒアリング対象者によって、得られる情報の質は大きく異なる。代理店や卸からは実際の取引条件やマージン構造、小売バイヤーからは店頭における競合製品の評価、業界専門家からは業界全体の力学、競合の元従業員からは内部の意思決定プロセス、エンドユーザーからは製品に対する率直な評価が得られる。
実勢価格、代理店への支援内容、新規参入企業の準備動向、調達構造といった情報は、こうした一次ヒアリングを通じてでなければ把握が難しい。なお、調査の実施にあたっては、ベトナムの個人データ保護法(PDPD)を踏まえた同意取得や、営業秘密に踏み込まない設問設計への配慮が欠かせない点にも留意したい。
競合調査を成功させる四つの要点
第一に、目的と意思決定事項から調査設計を逆算すること。第二に、二次情報と一次情報を組み合わせて相互に検証すること。第三に、現地語での接触を前提とし、翻訳を介さない一次情報の質を確保すること。第四に、一度きりで終わらせず、定点的に情報をアップデートし続けることである。網羅的に情報を集めることよりも、何を決めるための調査かを起点に設計する姿勢が、最終的な成果を分ける。
ベトナム競合調査を成功させる4つの要点

出所:B&Company作成
調査費用と期間の目安
調査費用と期間は、調査の規模によって大きく変わる。デスクトップ調査を中心とした簡易な調査であれば比較的短期間・低コストで実施できる一方、複数拠点でのヒアリングを含む詳細な調査になると、対象者の職位や業界の専門性、対象地域の広がりに応じて費用と期間が増加していく。目的に応じて調査範囲を適切に設計することが、コストと精度のバランスを取るための鍵となる。
まとめ:競合の実像把握が投資判断の精度を高める
ベトナム市場は成長を続けているからこそ、競合の実像を正確に捉えることが投資判断の精度を左右する。デスクトップ調査とヒアリング調査を適切に組み合わせ、目的に応じた調査設計を行うことが、進出後の想定外を減らすための最も確実な方法である。
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| B&Company
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