ベトナム医療機器市場の現状と日本企業への商機

22 1月 2025
Medical device

By: B& Company

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医療機器市場の背景と成長の原動力

ベトナムでは高齢化が進み、医療分野への支出が国民、政府の双方から増加している。このような背景により、医療機器市場は今後も大きな成長が期待される有望な分野である。

2019年の11.9%だった高齢者の割合は2023年には13.9%に増加[1]。さらに、2050年には総人口の約4分の1が高齢者になると予測されている[2]。このような人口構造の変化により、高齢者を中心とした医療サービスへの需要が急増している。また、高齢者以外の層でも医療への関心が高まっており、2020年から2022年にかけて年間総支出は減少しているものの、医療への支出は153USDから189USDと約25%増加している[3]

【図1】一人当たりの年間総支出、医療費(USD)

一人当たりの年間総支出、医療費

資料:WHO(世界保健機構)、GSO(ベトナム統計総局)

政府の投資と市場規模

政府は2021年から2025年にかけて約10億USDの中期投資計画を進めている[4]。この資金は医療施設の拡充や医療機器の購入、インフラ整備に充てられ、医療サービスの質向上を目指している。

このような政策が後押しとなり、2023年の医療機器市場は約16.7億USDに到達[5]。アジア太平洋地域では8番目の規模となり、2026年には約21億USDに拡大する見通しである[6]。同期間の年平均成長率も約8%と堅調な成長が予測されている[7]

供給不足と直面する課題

一方、需要の急増に対して供給が追い付いてない。ベトナム保健省(MOH)の調査(2022年)によると、中央病院の約90%で医薬品や医療機器が不足していることが明らかになった[8]。特に救急医療、集中治療、心臓病治療、手術用機器での不足が顕著であった。

また、国内で製造される医療機器は主に基本的な汎用製品に限られ、ハイテク製品の供給は技術力や投資の不足により制約を受けている。その結果、医療機器の約90%が日本、中国、韓国、ドイツ、米国からの輸入に依存している[9]

外資企業による市場支配と国内企業の課題

医療機器市場は外資企業によって支配されている。2022年の医療機器メーカー大手10社はいずれも外資企業であり、市場全体の売上の約75%を占めている[10]。特に日本企業は積極的な投資を行い、主要メーカーとしての地位を確立している。

一方、国内企業は小規模または零細企業が多く、研究開発やハイテク製造能力が限られるため、外資企業や輸入製品との競争に苦戦している。さらに、原材料の輸入税が高く、コスト面でのプレッシャーも抱えている。

【図2】医療機器製造トップ企業(2022年)

No 会社名 発祥国 所在地 収益

(百万USD)

1 Sonova Operations Center スイス ビンズオン省 8,516
2 Terumo BCT Vietnam 日本 ドンナイ省 4,633
3 Terumo Vietnam 日本 ハノイ市 4,181
4 Hoya Lens Vietnam 日本 ビンズオン省 3,337
5 Omron Healthcare Manufacturing 日本 ビンズオン省 2,896
6 B.Braun Vietnam マレーシア ハノイ市 2,811
7 Asahi Intecc Hanoi 日本 ハノイ市 1,830
8 Matsuya R&D Vietnam 日本 ドンナイ省 1,573
9 Mani Hanoi 日本 タイグエン省 1,292
10 Nikkiso Vietnam 日本 ホーチミン市 1,110
(業界全体の収益) 43,883

資料:B&Company

医療機器の輸入構造

医療機器は主に中国、韓国、日本、ドイツ、米国から輸入されており、2023年の輸入品の約3分の2はプラスチック製医療機器や治療・予防用の医薬品であった[11]。特に日本は医療用注射針やハイテク医療機器、歯科製品などを供給し、技術的な優位性を活かして高い評価を得ている。

【図3】医療機器輸入(%:合計約64億USD)

医療機器輸入

資料:Trade Map

【図4】輸入額上位の日本製品の輸入先国内訳(%:2023年)

輸入額上位の日本製品の輸入先国内訳

資料:Trade Map

日本企業にとっての商機

ベトナム市場の成長は日本企業にとって商機となる。輸出面では、日本製の医療機器は中央レベルの公立病院や専門病院で広く利用されており、特に品質と信頼性の高さが評価されている。さらに、日越経済連携協定(VJEPA)により、日本製品には特恵税率(0~25%)が適用されるなど輸出環境も整っている。

直接投資の面でも政府は外資企業の誘致を進めており、ホーチミン市では医療機器や医薬品の製造に特化した産業クラスターの設立が進行中である。このような環境は日本企業にとって現地生産の可能性を広げる好機となっている。

【図5】日本政府から4つの中央病院への医療機器の引き渡し

日本政府から4つの中央病院への医療機器の引き渡し

資料:Vietnamplus

日本企業が直面する課題

しかし、進出にはいくつか課題も存在する。

<規制の複雑さ>

政府は医療機器の安全性を確保するべく厳しい規制を設けている。製品登録や承認には長期間を要することがあり、場合によっては2~3年かかることもある[12]

<輸入手続きの制約>

輸入には市場認可証明書が必要であるが、これを取得できるのはベトナムの法人に限られるため、日本企業には現地法人の設立やパートナーとの提携が求められる。

<高額な先行投資>

現地製造には多額の初期投資が求められ、適切な生産ラインや研究開発への追加投資も必要である。

まとめ

ベトナムの医療機器市場は高齢化や医療需要の拡大を背景に成長を続けており、日本企業にとって輸出と現地生産の両面で魅力的な商機を提供している。しかし、規制や投資コストといった課題に対応するためには現地市場の特性を十分に理解し、信頼できるパートナーとの連携を強化することが重要である。日本企業がこれらの課題を乗り越え、ベトナム市場で持続可能な成長を実現するためのカギは戦略的な計画と柔軟な対応にある。


[1] 出典:GSO(ベトナム統計総局)のプレスリリース「Press Release on Population, Labor, and Employment Situation in Quarter IV and Year 2023」(2023年12月)

[2] 出典:UNFPA(国連人口基金)のWebサイト「Ageing – UNFPA Vietnam」(2021年8月)

[3] 出典:GSO(ベトナム統計総局)のレポート「Statistical Yearbook of Vietnam 2023」(2024年6月)

[4] 出典:Law Library of Vietnam(オンライン法律ライブラリ)の法律「Resolution 29/2021/QH15: Medium-term Public Investment Plan for the 2021-2025 Period」(2021年7月)

[5] 出典:Vietnam News Agency(ニュースポータルサイト)のニュース「Vietnam’s Medical Equipment Market Attracts Many Foreign Investors」(2024年8月)

[6] 出典:ITA(米国商務省・国際貿易局)のWebサイト「Vietnam – Healthcare」(2024年1月)

[7] 出典:B&Company

[8] 出典:Law Library of Vietnam(オンライン法律ライブラリ)の法律「Report No. 1528/BC-BYT 2022 on the Current Situation of Drug Supply and Use in Medical Examination and Treatment Facilities」(2022年11月)

[9] 出典:Vietnam Investment Review(ベトナム計画投資省のニュースメディア)のニュース「90% of Medical Equipment in Vietnam Must Be Imported」(2019年12月)

[10] 出典:B&Company

[11] 出典:プラスチック製医療機器、治療・予防用医薬品の輸入額はそれぞれ約24億USD、約18億USD。医療機器全体の輸入額は2023年に約64億USDとなる見込み(出典:Trade Map

[12] 出典:Thanh Nien Newspaper(独立系ニュース機関)のWebサイト「Domestic Medical Equipment Faces Fierce Competition with Imported Goods」(2024年8月)

 

B&Company株式会社

2008年に設立され、ベトナムにおける日系初の本格的な市場調査サービス企業として、業界レポート、業界インタビュー、消費者調査、ビジネスマッチングなど幅広いサービスを提供してきました。また最近では90万社を超える在ベトナム企業のデータベースを整備し、企業のパートナー探索や市場分析に活用しています。

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