若者とモバイルが牽引、ベトナムのデジタル音楽市場が躍進

世界中で音楽の視聴習慣が変化するにつれ、デジタル音楽は日常生活に深く根付いており、ベトナムも例外ではありません。

2025年8月19日

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2008年に設立され、ベトナムにおける日系初の本格的な市場調査サービス企業として、業界レポート、業界インタビュー、消費者調査、ビジネスマッチングなど幅広いサービスを提供してきました。

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若者とモバイルが牽引する音楽消費の新潮流

世界的に音楽の楽しみ方が様変わりするなか、デジタル音楽は今や人々のライフスタイルに深く溶け込む存在となった。この潮流は新興国にも波及しており、ベトナムも例外ではない。同国では若年層を中心とするインターネット利用者の急増がデジタル音楽の普及を後押ししている。人口の約7割が35歳未満とされ、スマートフォンを通じて手軽に音楽へアクセスできる環境が整いつつある。こうした背景を追い風にストリーミングを軸とした音楽消費が広がりを見せている。

もっとも、ベトナムのデジタル音楽市場は単なるグローバルトレンドの受け皿ではない。ソーシャルメディアとの高い連動性、ベトナム語コンテンツへの強い支持、さらにはV-POPからKP-OP、US-UKまで多様な嗜好を持つリスナーの存在が同国市場ならではの個性を際立たせている。音楽配信を手がける企業にとってはこうした文化的・行動的な特性を的確に捉えた戦略が欠かせない。単なるコンテンツ提供にとどまらず、ユーザーの共感を呼ぶ体験設計が市場での競争力を左右する時代に入っている。

2.5倍成長、主役は配信型の音楽ストリーミング

音楽産業の中でもデジタル音楽の伸びが目を引く。ベトナムではストリーミング、ダウンロード、広告を含むデジタル音楽市場が急拡大しており、その勢いはとどまるところを知らない。調査によれば、音楽とポッドキャストを含む同国のデジタルオーディオ市場は2019年から2024年の5年間で約2.5倍に拡大し、2024年には6,200万USDに達する見通しだ。[1]さらに2027年には7,240万USDまで成長が続くとされている[2].

中でも存在感を強めているのが音楽ストリーミングサービスだ。2024年には市場全体の6割超にあたる約4,000万USDを占め、主役の座を不動のものとしている。[3]世界的にも音楽消費の主流がストリーミングに移行する中、ベトナムでも同様の潮流が鮮明となっている。モバイル中心の利用環境が整い、ユーザー体験の高度化が進むなか、さらなる成長が期待される分野だ。

デジタルオーディオ市場規模(百万USD)

デジタルオーディオ市場規模(百万USD)

出典:RMITベトナム

多様化する音楽プラットフォーム、選択肢は三極化

デジタル音楽の普及が進むベトナムでは音楽を楽しむプラットフォームも多様化している。ストリーミング需要の高まりとともに、ユーザーの嗜好やライフスタイルに応じて使い分けられる複数のサービスが台頭している。

音楽ストリーミング利用率(2024年:%)

音楽ストリーミング利用率(2024年:%)

出典:RMITベトナム

中でも存在感を放つのがYouTubeやTikTok、Facebookといった「動画主体のソーシャルメディア」だ。音楽再生と同時にコメントやシェア、ライブ配信などの機能が融合され、アーティストとファンとの双方向のつながりが可能になった。単なる視聴にとどまらず、ユーザー自らがコンテンツを創り出す参加型の音楽体験が日常に根付いている。

一方、Zing MP3やNhacCuaTuiといった「ローカル系プラットフォーム」はベトナム語の豊富な音楽ライブラリや親しみやすいインターフェースを武器に母語コンテンツを好む層に根強く支持されている。SoundCloudのようにインディーズの登竜門として機能する例もあり、多様な音楽文化の受け皿となっている。

加えて、SpotifyやApple Musicといった「国際系ストリーミングサービス」も拡大を続ける。都市部や高所得層を中心に高音質や広告なしの体験、洗練されたプレイリストが評価されており、グローバルな音楽シーンと接続するツールとして利用が進んでいる。

このように、ベトナムの音楽プラットフォーム市場はグローバルとローカルが共存し、それぞれの強みを生かした形で発展している。各社にとってはユーザーの多様な期待にどう応えるかが競争の鍵となる。

聴取から創作へ、変貌する音楽との関わり方

ベトナムにおいて音楽はもはや単なる娯楽ではない。モバイル端末を通じて日常生活に溶け込み、朝の通勤、夜のリラックスタイムといった時間帯に自然に流れ込む日課となっている。調査によれば、ベトナムのリスナーは1日あたり平均1〜2時間を音楽の聴取に充てており、グローバルなモバイル消費型スタイルが定着しつつある。[4]

【図3】ベトナム人の音楽消費の最も多い時間帯(%)[5]

【図3】ベトナム人の音楽消費の最も多い時間帯(%)

出典:RMITベトナム

このようなユーザー行動の変化に呼応し、ストリーミングプラットフォームも進化を遂げている。気分や活動、時間帯に応じて最適な曲を提案するレコメンド機能や個別にキュレーションされたプレイリストはAIアルゴリズムによるパーソナライゼーションの成果だ。

注目すべきは音楽との関わり方が「聴く」から「参加する」へと移行している点だ。TikTokやInstagramなどを通じてユーザーは自ら歌い、踊り、楽曲をリミックスし、コンテンツクリエイターとして音楽のプロモーションに主体的に関わっている。こうしたUGC(ユーザー生成コンテンツ)は新たなヒットを生む土壌となっており、音楽の発見や人気形成のメカニズムを根底から塗り替えつつある。

アーティストの側にも変化がみられる。アルバムではなくシングル単位での配信を重視し、SNSやインフルエンサーと連動したプロモーションでファンとの即時的な対話を図る。この動きは制作やマーケティングのコストを抑えつつ、リアルタイムの反応を戦略に反映できる柔軟性をもたらしている。

もっとも、こうした動向は世界的なトレンドの一部でもあるが、ベトナム市場には独自の色合いがある。都市部の若者はV-POPやK-POP、ヒップホップに親しむ一方、年配層はベトナム民謡やバラードに共感し、長時間リスニング型の傾向が強い。

多様な嗜好と進化するテクノロジー、そして新しい創造と参加のスタイルが交錯する中、ベトナムのデジタル音楽市場はダイナミックでインタラクティブな環境へと変貌を遂げている。リスナー、アーティスト、プラットフォームの三者が共鳴する「共創型の音楽エコシステム」が着実にその輪郭を現している。

海賊版・競争・多様性が成長の足かせに

ベトナムのデジタル音楽は高成長を続ける一方、構造的な課題も浮き彫りになっている。最大の足かせは海賊版だ。IFPIの2023年調査によれば、利用者の66%がライセンス未取得のサイトやアプリから音楽を聴取している 。無料アクセスが当たり前だった2000年代の慣習、著作権意識の不足、そして有料サブスクへの抵抗感が根深い。SNSへの無断アップロードや非公式アプリなど形態は巧妙化しており、正規プラットフォームが拡大しても撲滅は容易ではない。アーティスト収益を圧迫し、投資マネーの流入を妨げる負の連鎖が続く。

さらに市場競争の激化も避けられない。国内外のサービスが似た機能とライブラリを提供し、差別化が難しい。ユーザー定着には独占コンテンツの確保や柔軟な価格プラン、学生割引、他サービスとのバンドルといった細やかな施策が不可欠だ。

課題を複雑にしているのがリスナーの嗜好の多様性である。V-POPに加え、K-POPやUS‑UKなど国際ジャンルへの関心も高い。国際系サービスはローカルコンテンツと決済手段が手薄になりがちで、地方部では特に利用障壁が大きい。一方、ローカル系は決済や文化適合度では優位だが、アルゴリズム推薦やUIの洗練度、グローバルカタログの拡充では後れを取る。

海賊版対策、サービス差別化、多様な嗜好への対応。三つの壁をどう乗り越えるかがベトナムのデジタル音楽産業の持続的成長を左右する。

著作権意識とファン熱が市場拡大を後押し

ベトナムのデジタル音楽市場は成長のエンジンを内包している。人口の7割超が35歳未満という若い構成に加え、スマートフォンの普及と高速通信インフラの整備が進み、新技術への受容度も高い。こうした条件はモバイル中心の音楽消費を支える下地となっている。

もう一つの注目点がファン主導のエンゲージメントである。若年層を中心とする熱心なファンコミュニティがSNSやストリーミングを介してアーティストと直接つながり、ライブ配信や限定コンテンツ、オンラインイベントに参加。Zing MP3やSpotifyなどはこうした熱量を活用したキャンペーンを展開し、ロイヤルユーザーの獲得を狙う。ファンは「消費者」であると同時に「支持者」でもある。プラットフォーム側にとっては経済的にも支援意欲のあるこの層をいかに育て、囲い込むかが競争優位性の鍵を握る。

もう一つの重点分野は、ファン主導のエンゲージメントです。熱心なファンコミュニティ、主に若者は、ソーシャルメディアやストリーミングサービスを通じてアーティストと直接つながり、ライブ配信、限定コンテンツ、オンラインイベントなどに参加しています。Zing MP3やSpotifyなどは、この熱狂的なファン層を活用し、忠実なユーザー獲得を目的としたキャンペーンを展開しています。ファンは「消費者」であると同時に「サポーター」でもあります。プラットフォームにとって、競争優位性の鍵となるのは、アーティストを経済的に支援する意欲のあるこの層をいかに育成し、維持するかです。

文化と技術が融合するベトナム音楽経済の未来

市場は依然として課題を抱える。海賊版の根絶は困難で、コンテンツの差別化や価格競争も激しい。しかし、その一方で、ユーザーの成熟や技術の進化、そして文化的ローカライズへの対応余地が広がる今、ベトナム市場は次の成長段階に差し掛かっている。

求められるのは短期的な登録者数の追求ではなく、データに基づく戦略とユーザー行動の深い理解、さらにはアーティスト・ファン・プラットフォームの三者が共創する音楽体験の設計だ。民間企業による革新だけでなく、著作権保護や課金制度整備など、公的支援との連携も欠かせない。

今後、ベトナムのデジタル音楽産業は文化とテクノロジーが交差する「音楽経済」としての成熟に向け、大きな転機を迎えることになるだろう。


[1] 出典:RMITベトナム「ベトナムのデジタル音楽市場 2024-2025

[2] 出典:RMITベトナム「ベトナムのデジタル音楽市場 2024-2025

[3] 出典:RMITベトナム「ベトナムのデジタル音楽市場 2024-2025

[4] 出典:RMITベトナム「注目:デジタル音楽の移行をリードするベトナムのリスナー

[5] 出典:ベトナムデジタル音楽市場動向 2024-2025」(RMIT大学) ベトナム経済産業省(METI)の報告書に掲載されているプラットフォーム利用状況や音楽消費の「好みの時間」に関する図表は、データ収集に使用された調査対象の具体的な数、属性、調査方法を明らかにしていない。報告書では、2023年8月と11月に実施された複数の調査結果に基づいて分析されているとされているが、図表に反映されている個々のデータと結果との対応が不明瞭である。そのため、図表の統計的信頼性と代表性を評価するには、追加情報が必要である。

 

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2008年に設立され、ベトナムにおける日系初の本格的な市場調査サービス企業として、業界レポート、業界インタビュー、消費者調査、ビジネスマッチングなど幅広いサービスを提供してきました。また最近では90万社を超える在ベトナム企業のデータベースを整備し、企業のパートナー探索や市場分析に活用しています。

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