ベトナム映画産業の成長と商機

28 10月 2024

By: B&Company

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ベトナムの映画産業

サービス産業はコロナ禍に大きな影響を受けたが、映画産業はコロナ禍後に回復して大きな成長を遂げている。Statista(図1参照)によると、映画産業の収益は2019年の約6,230万USDから2023年には約8,050万USDとなり、30%以上の増加となった。また、今後5年間(2024~2029年)で年平均約4.9%の成長が予測され、2029年には約1.1億USDになる見込み。

【図1】映画産業の収益(百万USD

資料:Statista[1]

娯楽の中でも映画鑑賞は比較的安価なため、様々な層に人気がある。映画館、時間帯、座席のタイプにより異なるが、チケット代は平均約45,000VND。一部の映画館では子ども、学生、シニア向けの割引を提供している[2]。映画館の数も大きく増加し、2014年の79館から2023年には約3倍の212館となった[3]

映画館市場はCGV Cinema(映画館数全体の約45%)、Lotte Cinema(同約26%)の韓国企業2社の寡占状態にある[4]。残りを占めるのは地場のGalaxy CinemaBHD StarBeta Cinemaなど。

  • CGV Cinema(韓国):世界トップ5、国内トップの映画館チェーン。SCREENX、IMAXなどの先進技術を活用。映画を通じて映画の創造性や地域社会の取り組みを支援する活動も行う[5]
  • Lotte Cinema(韓国):2008年にホーチミン市に進出。現在では約50館を展開する国内2位の映画館チェーン[6]。SCREENX、IMAX、SUPERPLEXなどの先進技術を活用。
  • Galaxy Cinema(地場):映画配給、映画館事業で20年以上。2023年にホーチミン市に近代的な映画館「Galaxy Sala」(国内初のIMAXレーザースクリーンを導入した映画館)を設立[7]
  • Beta Cinema(地場):適切な立地により空間と費用を最適化して安価なチケット代を維持。主なターゲットは学生や中間所得層。約25%がフランチャイズによる開業[8]

【図2】主な映画館の概況(20242月)

資料:Cinematone[9]

映画産業への外資参入機会

<多様なコンテンツの提供>

Z世代、α世代などの若い世代の需要に応えながら競争力を強化していくには映画以外のコンテンツの多様化が求められる。国内トップのCGV Cinemaは映画館のみではその地位を維持できないと考え、映画の制作、配給の新たな部門「ICECON」を立ち上げている[10]

  • – Stage:アーティストのコンサートを上映。
  • – Play:スポーツ、eスポーツの試合を上映。
  • – Channel:他のプラットフォームのリアリティ番組、インタラクティブゲームなどを上映。
  • – Library:展示、ワークショップを通じて新しいタイプの知識体験を提供。

「ICECON」は2023年にドキュメンタリー映画「Taylor Swift: The Eras Tour」の上映チケット13,000枚を販売したところ1時間で完売。2024年も韓国、国内のアーティストのコンサートのドキュメンタリー、eスポーツの大会の上映、関連グッズの販売など精力的に活動しているが、このような活動は興行、売店、広告のそれぞれの収益に相乗効果をもたらしている。

<内外資のコラボレーション>

地場企業は映画館の質を向上させ、規模拡大の活路を見出そうと努力している。

  • – 2024年3月、Galaxy CinemaSamsung(韓国)との戦略的パートナーシップを締結。先進技術を通じて映画鑑賞体験を向上させる。券売機によるチケット購入、LED、LCDスクリーンによる人気、新作の映画の視聴など[11]
  • – 2024年8月、Beta CinemaAEON Entertainment(日本)との合弁事業を発表。5兆VNDを投資して2025年から2035年にかけてハイエンド向けの映画館「AEON Beta Cinema」50館の展開を目指している[12]

投資家が考慮すべき事項

<競争力向上のための競合理解>

外資参入の際に適切な戦略を決定するには市場、成功事例(ビジネスモデル)を研究する必要がある。例えば、Beta Cinemaのコスト最適化やフランチャイズモデル、Galaxy Cinemaのパートナーシップを参考にサービスの質、競争力を高められる可能性がある。

<関連規制の遵守>

映画館の運営、映画の制作、配給に関する規制には次のようなものがある。

  • – 映画撮影法(05/2022/QH15:2022年6月発行):映画活動に参加する組織、個人の権利、義務、責任、映画に対する国家管理について規定。
  • – 映画法の一部条項に関する細則(131/2022/ND-CP:2022年12月発行)
  • – 文化、広告分野での行政違反に関する罰則規定(38/2021/ND-CP:2021年3月発行)

映画撮影法は2022年に32の条項が改正され、18の条項が新規追加された。そのうち、外資参入の際に注目すべき変更は次の通り。

  • – 2章13条:脚本全体を提供する必要がなくなった。要約された脚本と国内で撮影するシーンの詳細な脚本をベトナム語で提供する必要がある。
  • – 3章:映画配給サービスが条件付経営投資分野のリストから除外された。
  • – 38条:映画祭の開催が可能な主体の範囲が拡大した。国家機関以外でも一定の基準を満たした組織、団体、文化施設は映画祭を開催できる。
  • – 41条:国内で撮影するシーンがある映画を制作する外資企業は税制優遇を受けられる[13]

まとめ

映画館市場は市場の収益と利用者の需要の増加により、今後5年間成長していく。一方、外資参入に対する競争や圧力も激化している。そのため、コンテンツの多様化や地場企業とのコラボレーションなどの新たなアプローチの検討が求められる。また、競合のビジネスモデル、関連規制などを十分に理解して備える必要がある。

—-

[1] 資料:Statista(ドイツの統計データ会社)のデータ「ベトナム映画市場の収益」(2024年8月)

[2] 資料:VNPAY(オンライン決済会社)のWebサイト「映画館のチケット代」(2023年6月)

[3] 資料:Dai Doan Ket(祖国戦線中央委員会の機関紙)の記事「映画産業の将来展望を見出すのに苦戦」(2023年10月)

[4] 資料:Vietnam News(国営通信社)の記事「映画市場は市場シェアの再配分競争に突入」(2024年8月)

[5] 資料:CGV Cinema(韓国の映画館会社)のWebサイト「紹介

[6] 資料:Lotte Mart(韓国のディスカウントストア)のWebサイト「現代の映画館システム」。VNPAY(オンライン決済会社)のWebサイト「複合型映画館の特徴、予約方法」(2023年8月)

[7] 資料:Dien Tu Ung Dung(無線電子協会の機関紙)の記事「Galaxy Sala:現代的で派手な映画館の新たな基準を設定」(2023年12月)

[8] 資料:Beta Cinema(映画館会社)のWebサイト「導入

[9] 資料:Cinematone(映画関連情報提供会社)のWebサイト「映画統計リスト

[10] 資料:ICECON(CGV Cinema)のFacebook「ファンページ

[11] 資料:Galaxy Cinema(映画館会社)のWebサイト「Galaxy Cinema、Samsungが戦略的パートナーシップ締結」(2024年3月)

[12] 資料:Vietnam News(国営通信社)の記事「映画市場は市場シェアの再配分競争に突入」(2024年8月)

[13] Quoc Hoi(国会の電子情報ポータル)の記事「映画撮影法の注目すべき変更点」(2022年7月)

 

 

B&Company株式会社

2008年に設立され、ベトナムにおける日系初の本格的な市場調査サービス企業として、業界レポート、業界インタビュー、消費者調査、ビジネスマッチングなど幅広いサービスを提供してきました。また最近では90万社を超える在ベトナム企業のデータベースを整備し、企業のパートナー探索や市場分析に活用しています。

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