By: B& Company
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2024年、ベトナムの教育投資は国家予算の約16%に達する見込み[1]。この数字は米国(約13%)、インドネシア(約18%)、シンガポール(約20 %)と並び、教育への注力度が世界標準に近いことを示している[2]。EdTech(教育テクノロジー)分野では政府の支援やグローバル企業から多額の投資が市場の急成長を後押しし、ベトナムは新たな投資先として注目を集めている。
ベトナムのEdTech市場は「学習管理システム(LMS)」、「STEAM・STEM教育」、「言語学習」、「アプリ学習」など、多岐にわたるサービスが展開されている。特に「K-12(1~12年生)教育」が市場の中核を成しており、2023年にはEラーニングの市場規模が前年比約15%増加の約3.3億USDに到達した[3]。2024年以降も年平均12%の成長が見込まれており、この分野への期待感は高まるばかりである[4]。
【図1】Eラーニングの市場規模(百万USD)
資料:Statista
また、2021年から2023にかけて全国で約9万回のSTEM授業が実施され、多くの学校が「Smas」、「VioEdu」などのLMS(学習管理システム)を導入し、教育の質の向上に努めている[5]。「Quizizz」、「Azota」などのツールも広く利用され、都市部ではAIを教育管理プロセスに組み込む動きが加速している。
ベトナムの家庭では家計の約24%が教育費に充てられ、子どもにデジタルスキルを学ばせることが一般的になりつつある[6]。インターネットの普及率は約79%、スマートフォンの普及率は170%に達しており、デジタル環境がEdTech導入を後押ししている[7]。さらに、国際企業の進出が激化する就職市場での競争を生み出し、学生や社会人がスキル向上を目的としたEdTechサービスを積極的に活用するようになっている。一例として、STEAM教育センター(MindXなど)では実践的なスキルの提供が行われ、語学学習アプリでは「IELTS」(英語能力試験)や「JLPT」(日本語能力試験)といった資格試験対策も可能である。こうしたサービスが労働力開発における変革を推進し、市場を活性化させている。
2023年、ベトナムのEdTech市場には70以上の投資家が参入し、4億USD以上が投資された[8]。TFlat(語学学習アプリ)、Teky(STEAM教育)、Elsa(AIベースの語学学習ツール)などが注目の企業で、それぞれ独自の技術とパーソナライズされた教育サービスにより市場をリードしている。
【図2】EdTech市場における主要プレイヤー
TFlat | Teky | CLS | SMAS | Elsa | Vuihoc | |
分野 | アプリ学習 | STEAM、STEM教育 | 学習管理システム | プラットフォーム | 語学学習 | コンテンツ |
対象 | K12 | K12 | 企業研修 | K12 | K12以上 | K12 |
特徴 | AIを活用した課題解決機能に加え、全科目対応の解答ガイドや他のユーザーとのQ&A機能で学習をサポート | 子ども向けのプログラミングやSTEAM教育に加え、サマーテクノロジーキャンプで楽しみながら批判的思考と創造性を育む | 自動トレーニングシステムで従業員のパフォーマンスを定期的に評価し、会社の価値観に沿ったサービス品質を提供 | 成績や学習状況を最新情報で確認でき、データ管理や評価、ランキング機能を通じて学習を効率的にサポート | IELTS対策やサンプルテストに加え、AIスピーキングパートナーが個々のニーズに合わせた学習をサポート | 1対1の個別指導に加え、多様な教材やコース、宿題サポート、教師とのQ&Aブログで学習をサポート |
業績 | ベトナム初のAI活用型問題解決アプリとして何百万人もの学生の自習をサポート | シンガポールから500万USDの投資を受け、教育サービスの充実と課外プログラムの拡大を実現 | 2021年には3,000社以上に導入され、サオクエ賞やテックフェストアワード2017を受賞 | ベトナムで最も利用されている学校向けプラットフォームとして2022年には教育管理ソリューション部門で金賞受賞 | 米国とシンガポールから2,300万USDの投資を受け、AIを活用した学習ツールを開発し、中国、台湾、日本の学校にも展開 | シンガポール、中国、韓国から600万USDの投資を受け、AI技術を活用したパーソナライズ学習ソリューションを提供 |
資料:B&Company
さらに、政府もEdTech普及を政策面で後押ししている。例えば、2030年までに大学の90%、職業訓練センターの80%でデジタルラーニング技術を導入する目標を掲げるほか、小学校から「STEAM教育」を積極的に実施する計画も進行している。
【図3】EdTech導入促進政策の例
政策 | 内容(当該部分抜粋) |
2021年から2030年に向けた学習社会の構築
(2021年発行) |
• 2030年目標:大学の90%、職業訓練センターの80%でデジタルラーニング技術を導入
• 人材育成:技術進化に対応する労働力を育てるため、職業訓練や専門教育に特化したEdTechを推進 • 教育環境の革新:EdTechやデジタルライブラリーの開発に投資し、教育全体を強化 |
2030年に向けた2022年から2025年までの教育訓練でのIT、DXの活用強化
(2022年発行) |
• デジタルインフラ整備:高速インターネットや学習ツールを導入し、地方や恵まれない地域にもEdTechを普及
• STEAM・STEM教育:小学校から導入し、テクノロジーを活用した教育文化を育成 • Eラーニング拡充:2025年までに高等教育の50%以上で導入し、K12カリキュラムの半分以上をカバーする教材を開発 |
高等教育のオンライン教育におけるITの活用に関する規制
(2023年発行) |
• 基準設定:国の教育基準に基づくガイドラインを制定し、プラットフォームの質やアクセス性を定期的に評価
• 官民連携:EdTechの質と提供範囲は拡大するため、政府と民間企業の協力を推進 |
資料:B&Company
一方で、地方や郊外ではインフラ不足が課題となっており、EdTech導入が遅れている。都市部に比べてデジタル教育へのアクセス格差が広がるなか、政府によるさらなる資金投入や官民連携が求められている。それでも、ベトナムのEdTech市場は引き続き成長を続ける見込みである。教育とテクノロジーが融合する未来がどのような姿を描くのか。ベトナムの挑戦は世界中の教育関係者や投資家の注目を集めている。
[1] 出典:Skills Bridge(人材開発企業)のニュース「The Development of EdTech in Vietnam: A Journey of Growth and Future Prospects」(2024年4月)
[2] 出典:Skills Bridge(人材開発企業)のニュース「The Development of EdTech in Vietnam: A Journey of Growth and Future Prospects」(2024年4月)
[3] 出典:Statista(ドイツの統計データ会社)のデータ「Online Education – Vietnam」(2024年3月)
[4] 出典:Statista(ドイツの統計データ会社)のデータ「Online Education – Vietnam」(2024年3月)
[5] 出典:Edtech Agency(教育技術専門エージェンシー)のニュース「Overview of the EdTech Market in Vietnam」(2024年7月)
[6] 出典:Hanoi Times(オンラインニュースポータル)のニュース「Vietnam’s Investment in Education Accounts 18% of Total State Expenditure」(2022年8月)
[7] 出典:DataReportal(シンガポールのオンライン統計プラットフォーム)のレポート「Digital 2024: Vietnam」(2024年2月)
[8] 出典:LinkedIn(ビジネス特化型SNS)のニュース「Vietnam’s EdTech Sector Surging Ahead, Expected to Reach $3 billion by 2023」(2022年8月)
B&Company株式会社
2008年に設立され、ベトナムにおける日系初の本格的な市場調査サービス企業として、業界レポート、業界インタビュー、消費者調査、ビジネスマッチングなど幅広いサービスを提供してきました。また最近では90万社を超える在ベトナム企業のデータベースを整備し、企業のパートナー探索や市場分析に活用しています。 お気軽にお問い合わせください info@b-company.jp +(84) 28 3910 3913 |