ベトナムのモバイル決済とデータ社会の可能性

背景

過去数十年にわたりデジタル変革の波はビジネスを大きく変えてきました。この流れの中で、とりわけ決済のソリューションやプラットフォームがより大きな役割を担いつつあります。各国でモバイル決済が一気に浸透し、多くのビジネスで方法を大きく変える必要が生じています。

ベトナムについては、インターネットやスマートフォンの普及率が高く若年齢層が多いことや、金融包摂がまだ進んでいないことなど、モバイル決済が普及する条件が整っています。一方、モバイル決済市場は発展の初期段階にあり、参入余地のあるタイミングでもあります。

クライアントは日本におけるデジタル決済ネットワークでの事業経験があり、金融、小売、ICTの各企業をグループ会社に持つことから、この分野の可能性と重要性を予想しました。この機会を確認するため、クライアントと弊社B&Companyは、以下の目的を主に、ベトナムでのモバイル決済に関する調査を実施しました。

  • ベトナムでのデジタル決済の状況を把握し、中長期的なビジョンに基づいて当面の戦術を策定する
  • ベトナムでのモバイル決済の成長性や考えられる将来の戦略を評価する
  • 本事業へのクライアントの参入可能性を評価し、パートナー候補との協力関係を構築する
顧客 : 非公開
分野 : 市場調査、コンサルティング
業界 : フィンテック
期間 : 2018年

 

本プロジェクトは、包括的な市場調査や既存・潜在事業者の評価だけでなく、戦略構築やコンサルティングも含まれました。さらに、ベトナムではモバイル決済が新たな分野であるため、他国の事例を分析し、べトナム市場の参考になる市場発展パターンを示す必要がありました。

これらのため、調査チーム(クライアントと弊社の日本・中国・ベトナム)は課題を切り分けた上で緊密に連携し、デスク調査や当局、業界専門家インタビュー等の調査を実施しました。

B&Company社内に加え、モバイル決済や中国の状況に詳しい専門家を外部から加えて担当チームを構成しました。

  • 設計(調査計画策定)

全体を分割し、4ステップでの検討フローを設計/実施しました。

1) 各国のモバイル決済の状況を調査し、複数の典型的な事例を抽出
2) ベトナムのモバイル決済市場の状況を分析する
3) ベトナムのモバイル決済市場の将来動向を予測する
4) ベトナムのモバイル決済市場での戦略的オプションを抽出する

では世界各国とベトナムを比較するため、国別の状況をパターン分けしベトナムに適する事例を抽出しました。

ではベトナム現地調査として、デスクリサーチ、政府当局や主要決済企業へのインタビュー、小規模小売業者や消費者のアンケート、グループディスカッションなど、多くの手法を組み合わせて実施しました。

  • 実査(フィールドワーク)

プロジェクトチームを小グループに分けて並行して調査を実施。週に1度のミーティングにて、進捗共有と次工程を決定。インタビュー候補の確保には社内外の人脈を活用しました。

  • レポーティング(コンサルティング)

中間・最終報告に加え、適宜クライアントと弊社は進捗状況や得られた結果を共有、オープンな議論を行い方向性をすり合わせました。

  • グローバルなモバイル決済市場の状況・典型事例

世界中でモバイル決済市場が急成長していることを統計データが示しているがその方向性を決める要因を調べると、各国の金融インフラの整備、現金以外の決済方法の浸透、ITリテラシー、需要などに応じて、様々な成功モデルが存在した。以下、4つのモデルに集約できた。

1) 米国モデル:非接触型決済を活用したモバイル決済。NFC(近距離無線通信)技術の導入コストが相対的に安い先進国で多い。
2) 中国モデル:主要なモバイル決済事業者がインターネット関連事業者である発展途上国で多く見られる。QRコードが、価格の低さと技術の簡易さから基盤となっている。
3) EUモデル:銀行で提供されるサービスの1つとしてモバイル決済が広がった。銀行の普及率が高い先進国で多く見られる。
4) ケニアモデル:MNO(モバイルネットワークオペレーター)がスマートフォンや銀行口座を持たない低所得層でも使える携帯電話ベースの技術を活用したモバイル決済サービスを提供している。

  • ベトナムのモバイル決済市場の状況・将来動向

推進要因:若年層が新しい技術に適応していて、スマートフォン利用やEコマースの安定的な拡大がモバイル決済のための大きなプラス要因。また、ベトナム政府は非現金決済の1つとしてモバイル決済を拡大しようとしている。
課題:依然として日々の決済で一番利用されているのは現金である。銀行口座の保有比率の低さに代表される金融インフラの整備状況が障壁となっている。
多くの事業者がベトナムのモバイル決済市場に参入しているが、大成功を収めた事業者はまだいない。海外からの事業者も参入を試みているが、ベトナムの規制に阻まれており、ローカルのインターネットやMNO事業者に優位性が出てくると思われる状況。

  • 戦略的オプション

モバイル決済市場への新規参入余地はまだある。インタビュー結果からは人口の大多数が、現金以外の決済方法を受け入れるのに5年以上かかる見込み。それでも将来的には、データ社会とそれを支えるモバイル決済の実現・普及可能性は高い。コンビニエンスストア、タクシー予約などの日常生活サービスに加え、病院、公共交通、スマートシティなどの分野でも、モバイル決済が採用され、便利な生活が実現されつつある。最終的には、各国同様、データ社会に移行しモバイル決済やその他のデジタル化が人々をつなぐ基盤となっていくことが想定される。